多くの製造業がDXで十分な成果が得られていない中、あらためてDXの「X」の重要性に注目が集まっている。本連載では、「製造業X」として注目を集めている先進企業の実像に迫るとともに、必要な考え方や取り組みについて構造的に解き明かしていく。第2回と第3回は金沢工業大学の革新複合材料研究開発センター(ICC)が作り出しているエコシステムを前後編の2回で取り上げる。
製造業DX(デジタルトランスフォーメーション)において、本質的な「X(ビジネス変革)」の在り方が問い直される中、成功している製造業はどのような取り組みを進めているのだろうか――。その実情について、実際の企業や研究機関などに赴き、紹介する本連載だが、2回目となる今回は金沢工業大学の革新複合材料研究開発センター(ICC)が作り出している地元企業のビジネス変革を支えるエコシステムを紹介する。
前石川県副知事で政策研究大学院大学 特任教授の西垣淳子氏と、早稲田大学 研究戦略センター 教授の楠和浩氏が「製造業X」を体現している企業や現場を訪問し、次世代を担う製造業の変革の姿を紹介する。また、その姿がインダストリー4.0などで示された参照モデルの中で、どういう位置付けを担うのかを示しつつ、成功のポイントについて議論する。
ICCは、繊維産業が盛んな石川県の立地を生かし、技術的応用性の高い複合材料の研究、開発、教育、産学連携を統合したオープンイノベーション拠点だ。
石川県は繊維産業が盛んな地域であることは広く知られている。例えば、2025年4月にかほく市にオープンした「KAJI FACTORY PARK」は、繊維産業の歴史と技術を分かりやすく伝えるオープンファクトリーで、工場併設型のミュージアムとして整備された、繊維業界において日本最大級の体験型産業観光施設だ。そこでは、糸が生地になるまでの工程を動画で学べるほか、実際の糸や生地、さらにはそれらを扱う機械を見学できる。最後には、併設工場で24時間稼働する津田駒工業の160台の織機(ウオータージェット織機)が所狭しと並ぶ光景を目の当たりにすることができる。
日本の繊維産業は、川上と川下を大企業が担い、川中(加工)を中小企業が支えてきた。そのため、1社単独の技術だけでは成立せず、各産地における中小企業の集積によって産業構造を形づくってきた。全国にはさまざまな繊維産地があるが、北陸地域は絹織物から発展し、今は合繊を中心とした産地として、今なお、各企業が独自技術を基盤に市場での価値を維持している。しかし、繊維産業全体の不況の波は避けられず、高付加価値産業への転換が求められていた。
こうした背景から、繊維産地として企業が集積する石川県では、2009年に「いしかわ炭素繊維クラスター」が発足し、産官学が一体となった取り組みが進められてきた。2012年には文部科学省の「地域イノベーション戦略支援プログラム」の1つに採択され、翌2013年には金沢工業大学 革新複合材料研究開発センター(ICC)が設立された。さらに同年、金沢工業大学は科学技術振興機構(JST)の「革新的イノベーション推進プログラム(COI STREAM)」にも採択され、9年間で総額約80億円規模の大型研究開発に取り組んだ。加えて2023年には内閣府の「地方大学・地域産業創生交付金事業」にも採択されている。そのICCを中核として、複合材料の成形加工技術に関するイノベーションエコシステムが形成されていると聞き、実際に訪問することにした。
ICCを訪れると、大学の一機関というより、工場に近い印象を受ける。建屋内には、多様な装置が並ぶ。装置の中には先進的で高額なものも多く含まれている。しかも、購入した装置をそのまま設置し、利用者に使わせるのではなく、複合材料の成形加工に対応するために、独自で装置を開発しながら、あるべき技術の確立と市場の創造に向けて取り組んでいる。
地方で大学の機関などを中心に産学連携を進める際、まず機械装置を整備し、地元の中小企業の利用の場として提供する例は、よくある話だ。しかし、複合材料そのものがまだまだ発展中の技術分野であり、ICCに並ぶ装置は、開発途上のものが中心である点が大きく異なる。
モノづくりには、製品を作るための機械や装置の開発と、その機械によって効率よく生み出す製品の開発という2つの側面がある。ICCでは、複合材料においてこの両方の研究開発が同時に進められている。開発途中であるため、機密性の高い装置にはカバーがかけられ、先進性のあるものについては、外部には公開されていない。
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