ICCの特殊性を示すエピソードの1つに、ドイツのフラウンホーファー研究機構との提携がある。フラウンホーファー研究機構は、ドイツ最大の応用研究機構であり、産業界との強固な連携が特徴である。1949年に設立され、75の研究所と3万2000人の研究者を含むスタッフを雇用している。AI(人工知能)、エネルギー、材料、製造技術など幅広い分野で実用的な研究を推進し、企業との共同研究や技術移転を通じて成果の商業化を促進し、産業競争力とイノベーション創出に貢献している。
このフラウンホーファー研究機構の鋳造・複合材料・加工技術研究所(以下、フラウンホーファーIGCV)とICCは、2025年2月に連携を発表し、ICC内に共同研究開発/事業化拠点として「FIP-MIRAI@ICC」を立ち上げた。2026年1月現在、ICCはドイツのフラウンホーファー研究機構とのFIP拠点を設立している唯一の大学である。
なぜ、このような提携が実現したのだろうか。
繊維産業では、川上と川下を大企業が担う構造の中、その間で中小企業が成長してきた。炭素繊維を含む複合材料も繊維の延長線上にあり、繊維産業の知見は生かせるものの、新素材としての新しい市場開拓が不可欠だ。
複合材料の代表といえる炭素繊維では、川上(元の素材メーカー)は大企業が担うが、川中(素材から機能を満たす炭素繊維を製品の形にするメーカー)と川下(炭素繊維を最終製品として活用するメーカー)の主要プレーヤーが国内には少ない。そのため、複合材料という新しい素材を産業として扱うためには、その特性を生かして「(1)どういう市場を狙っていくかというターゲット市場を明らかにする」だけでなく、「(2)その市場に合わせた素材そのものの開発」、さらには「(3)その素材の成形加工技術を生み出すこと」が必要である。ICCでは、(2)と(3)双方の技術開発が行われているのは見えてきたが、(1)の市場探索まで担っているとしたら、大学の枠に収まらない何かの工夫があるはずだ。
フラウンホーファー研究機構との提携はその工夫の一端だといえる。提携の理由について、ICC 所長の鵜澤潔氏は「出口戦略を学ぶためだ」と説明する。
フラウンホーファー研究機構では、研究者が地元企業や大学と連携し、研究開発を進めながら、ベンチャー企業の社長として自ら事業化を行っている。つまり、事業化という出口を見据えつつ、中小企業とともに必要な人材を集め、新市場を切り開く仕組みが確立されているのだ。
新素材を開発しても、市場が形成されなければ事業化には至らない。複合材料は高性能ゆえに開発コストが高く、そのコストに見合う市場が見えなければ事業化は難しい。中小企業単独では設備投資も実証実験の繰り返しも困難であるため、ICCでは文部科学省の予算や石川県を巻き込んだ交付金を活用し、中小企業と共同で研究開発を進めるための設備投資を行ってきた。
ただ、当初の文部科学省からの評価は手厳しいものだったという。「研究の方向性が定まらず成果につながっていない」と指摘されており、事業化の方向が定めきれず、さまざまな試行錯誤をしていたことが読み取れる。こうした経験を踏まえながら、中小企業の新分野進出といった出口戦略をにらんだ研究開発にICCは舵を切ってきた。そのためには、単純なオープンイノベーション拠点としてのICCの姿に加え、何か特別なエコシステム形成のポイントがあるのではないかと考える。
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