AI配船の現場は“レシピ”で進化する――グリッドが語る数理最適化の現在地船も「CASE」(3/3 ページ)

» 2025年11月20日 07時00分 公開
[長浜和也MONOist]
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最適化は成熟し進化は“周辺”にある

 数理最適化エンジン自体は長年の研究で理論的には完成形に近いレベルまで到達しているという。「数理最適化エンジンとしての進化は革命的な変化というより安定的な進化だ」(尾脇氏)。

 ただし、入力と出力の部分となる「データの取得と可視化」は今も急速に進化している。「ハードウェア性能の向上に加えて、生成AIなどの新技術でデータの取り込みや結果の活用方法が劇的に変わりつつある。エンジンそのものよりも、その“前後”が大きく変わるだろう」(尾脇氏)。

 海事関連業界におけるAI利活用ソリューションの開発を担う“宮本チーム”には複数の最適化専門エンジニアが所属し、特定人物に依存しない体制を整えている。宮本氏が「海運業界の専門用語や商習慣を理解する研修も社内で共有しており、新しいメンバーでも1〜2年で一通りの開発ができるようになる」と述べるように、業界固有のルールが色濃く存在する海事関連業界のソリューション開発でも社内教育とレシピ蓄積の仕組みが、いわゆる“属人化”に陥ることなく開発の汎用性を高めている。

 導入が難しいとされてきた海事関連業界に早くから取り組んできたかいもあって、グリッドは現在、AI利活用による配船最適化分野で国内トップの実績を誇る。「荷主と海運の両業界で、これだけ多くの導入を進めた例は他にない」(尾脇氏)。

 差別化の鍵は「顧客との共同設計力」と「徹底したヒアリングに基づく提案」だ。「他社との差を意識するよりも、ユーザーの“本当にやりたいこと”を徹底的に聞き出して提案する。それが結果として差別化につながっている」(尾脇氏)。

 「まずは国内で確実な信頼を積み重ねたい」と宮本氏は語るが、それとともに今後は「海外の展示会などにも関心を持っている」と海外展開も視野に入れるという。

 AI利活用による配船最適化ソリューションは、人の経験を数理に変える技術といえる。グリッドの取り組みは、熟練担当者の判断基準を“数式化”し、誰もが同じ水準で判断できる仕組みを作る試みだ。「数理最適化」という手法が、海の上の経験知を継承した上で、より精度の高い運航判断を下す大きなアシスタントとなりつつある。

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