海運業界で進む「ICT活用」は操船や運航に関連した分野だけではない。メンテナンスや配船といった広い業務に広がりつつある。2020年6月30日に出光興産とグリッドから発表があった「石油製品を運ぶ内航船の海上輸送計画(配船計画)を最適化する実証実験」も、海運業界におけるICT導入の試みだ。
海運業界で進む「ICT活用」は操船や運航に関連した分野だけではない。メンテナンスや配船といった広い業務に広がりつつある。2020年6月30日に出光興産とグリッドから発表があった「石油製品を運ぶ内航船の海上輸送計画(配船計画)を最適化する実証実験」も、海運業界におけるICT導入の試みだ。
出光興産は燃料油事業の他に基礎化学品や高機能材、再生可能エネルギーを国内外で展開する企業だ。その主力商品である石油製品の輸送は、主に油槽船(タンカー)による海上輸送とタンクローリーによる陸上輸送の連携で実施する。そのタンカー配船業務を最適化するために、出光興産ではAI(人工知能)による業務改善システム開発を手掛けるグリッドと連携してAIの導入を試みた。
出光興産とグリッドによる発表では、「配船計画策定はこれまでシステムとして自動化することが難しい業務だった」としているが、その理由は何か。そして、システム化が可能になった理由は何か。出光興産 流通業務部企画課の村上正氏と、グリッド代表取締役の曽我部完氏に聞いた。
編集部注 船と自動車。どちらもモビリティであり、物流や旅客輸送の今後の在り方にどう貢献できるかが問われています。MONOistのオートモーティブフォーラムをご覧になる自動車関連の読者の皆さまにとって、船の世界の取り組みがヒントや気付きにつながれば幸いです。
出光興産におけるこれまでの配船業務では、次のような流れで計画を立案していた。まず、船の位置情報や行先、積載物の状況、気象情報をまとめた航海記録の報告が定時(多くの場合は朝イチに)に上がってくる。それらの情報はメールによるテキストデータ、もしくは、電話による口頭報告になる。陸上では、各船から上がってくる航海記録報告を「手入力」で1つのファイルに集約する。
AIS(自動船舶識別装置:Automatic Identification System)によって、船舶の動静情報や目的地、積載物に関する情報をデータで送信できる。出光興産でも一部のAISデータを活用している。しかし、十分に生かすには、AISデータの的確な入力(針路、速度などはGPSから自動で取得できるが、目的地や積載物などの情報は船員側でその都度入力する必要がある)が必要だ。船員側も作業負荷が増し、不慣れな業務に加え、報告書の二重入力などで業務が煩雑になることもあり、配船計画で利用するには、「情報が自動で入力されるAISやその他システムで利用できる仕組みが必要」と村上氏はコメントしている。
こうして、船から上がってくる情報の他にも、気象海象の予報情報に各地の油槽所における在庫情報を確認した上で、どこの製油所から精製した石油製品を積載して、どこの油槽所に向かわせるのが一番効率的かを午前中いっぱいかけて精査し、配船計画を立案する。しかし、計画を決定した後も海象気象が変化したり、入港を予定していた岸壁の入れ替えが発生したりと、状況の変化を午後いっぱいかけて確認しなければならない。
さらに、災害や船のアクシデント、港湾及び油槽所設備の急な制約や故障などで、予定していた積み荷を供給できない場合もある。そのような突発的な状況への対処も求められる。なお、これらの確認作業も現地へ電話をかけて実施する。こうして確認した状況の変化を反映して、夕方に計画を見直して確定する。これが毎日繰り返される。
配船計画を立案する会議には、最も多かった2年前で10〜20人ぐらいが参加していた。現在は、船の契約形態が専行船(傭船)契約へ変わったので6〜8人ぐらいだという。会議の時間は通常1時間程度、災害など突発事案が発生した場合は2〜3時間ほどかかる。参加メンバーは、各種情報を取りまとめた表(Excelのワークシート)と、船舶のAISデータを日本地図にプロットするWebサービスで情報を共有する。これに加えて、特記事項などをメールで伝達する。
船舶の配船情報と在庫状況は一元管理したデータベースがあるが、その他の情報は船ごとに担当者が個別に把握している。データベースの更新はリアルタイムではなく人手で入力することで更新する。更新頻度は船舶の配船状況が朝と夕方の1日2回。在庫状況のデータベースで朝の1日1回だ。こうして立案した配船計画は1日1回、朝に通知する。ただし、状況が変わった場合には、随時変更指示は通知している。通知方法も船舶電話による音声通告だ。
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