その汎用性はどのように生まれるのか。ヒューマノイドロボットが複雑な現場作業を学習し、自律的に実行するためには、「どのように動けばいいか」を判断するための膨大な「学習データ」が不可欠だ。
INSOL-HIGH 代表取締役の磯部宗克氏によれば、今回のヒューマノイドロボットはVLM(視覚言語モデル)で目の前の動画情報から物体を認識する。次にLLM(大規模言語モデル)がその視覚情報を言語化し、実行すべき基本動作を選択。最終的に、経路生成や軌道最適化などのモーションプランニングによって具体的な動作が計画され、ロボット本体がそれを実行する仕組みだという。
この一連の流れをゼロから構築するために、まずINSOL-HIGHは、人間がロボットを操作して手本を見せる模倣学習の動画と、その際のロボットのモーターなどの動作パラメータを大量に収集し、ベースとなる「ロボット基盤モデル」を構築した。
さらに、収集した動画データに対し、「右手で人形をつかんだ」といった細かいサブタスクを、人間が1つ1つひも付け(アノテーション)していく。これらによって制御/実行データが作成され、ロボットは初めてピックアンドドロップという一連のタスクを理解する基盤モデルを獲得するのだという。
しかし、ラボで作成した基盤モデルをそのまま現場に持ち込んでも、現場の環境によってはうまく機能しない可能性も高い。そこで重要になるのがファインチューニング(現場適応学習)である。
基盤モデルが数万回、数十万回という学習データから構築されるのに対し、ファインチューニングでは、現場特有の環境(照明の明るさ、商品の種類、ケースの置き場所など)に合わせて、数百回程度の追加学習を行う。これにより、ロボットは短期間でその現場の作業に特化した動きを習得できる。
今回の試験導入では、この基盤モデルを東京納品代行の実現場に持ち込み、ファインチューニングを行い、ロボットが自律的に作業できることを実証した。
今回、実証の場を提供した東京納品代行 取締役常務執行役員の嶋田亮司氏は、物流現場の視点からヒューマノイドロボットへの期待を以下のように語る。
「当社は納品代行を主業とする会社で、比較的一般消費者様に近い物流を担っている。こうした作業は機械化がしづらく、自動化を進めても、どうしても人が介在する現場が残る。その中でロボットと協働していくことができれば、新しい物流現場の形になるのでは」(嶋田氏)
今回の実証実験の舞台となった東京納品代行の東京ベイ・ファッションアリーナには、すでにAutoStore(オートストア)の自動倉庫システムを導入している。同現場では、約1万7300個のコンテナから搬送ロボットが商品を自動で取り出し、作業者(人間)がいる「ステーション」と呼ばれる場所まで搬送する。
AutoStoreの導入により、同エリアの作業人数はすでに50人から10人への削減が実現できた。しかし、ステーションに運ばれてきたコンテナから商品を取り出し、梱包(こんぽう)や仕分けを行う最終工程は、依然として人間の作業者が担っている。
嶋田氏は、「この最終工程をヒューマノイドロボットが担うことができれば、物流現場の完全自動化に向けた大きな一歩となる」と期待を寄せる。
中国などでは、既にヒューマノイドロボットの研究が加速し、市場の注目が高まっている。山善の北野氏は、「日本がヒューマノイドロボットを活用するための勝ち筋は、この高品位な学習データの収集にある」と語る。
その理由として、ヒューマノイドロボットは従来の産業ロボットと異なり、専門のプログラマーがプログラミングしなくても動かすことができる特徴を持つことを挙げる。一方で、ヒューマノイドロボットが自律的に作業を行うには、動くための学習データを大量かつ高品質に蓄積することが不可欠である。
この戦略に基づき、山善とINSOL-HIGHの2社は共同で「フィジカルデータ生成センター」の構築を進めている。同センターは、最大50台のヒューマノイドロボットが同時稼働する、国内でも大規模なトレーニング環境となる計画だ。
山善は、「2025国際ロボット展」(2025年12月3〜6日、東京ビッグサイト)の初日に、このデータセンターへのコンソーシアム参画企業を発表する予定だ。引き続き参画企業を募りつつ、2026年春にフィジカルデータ生成センターを稼働させ、2026年度内にヒューマノイドロボットの実際の現場への本格導入を目指す。
北野氏は、ロボット本体のリース/レンタルと、学習データのサブスクリプションを組み合わせることで導入ハードルを下げるビジネスモデルも検討していると述べ、「人とロボットが協働する社会の実現に向け、フロントランナーとして邁進(まいしん)していく」と展望を語る。
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