中国のロボット分野、とりわけヒューマノイド(人型ロボット)への注目が高まっている。中国の大手テックメディア36Krの日本語版である36Kr Japanが、その現状をレポートする。
今、中国のロボット分野、とりわけヒューマノイド(人型ロボット)への注目が一段と高まっている。
上海で2025年7月に開かれた「第8回 世界人工知能会議(WAIC 2025)」や、北京で同年8月に行われた「世界人型ロボット運動会」などをきっかけに、中国企業による二足歩行ロボットのダンスや協調動作などが各国のメディアを介して話題となり、中国メーカーのプレゼンスを印象付けた。
特に、世界人型ロボット運動会には、日本を含む世界16カ国から約280チーム、500体超のロボットが参加し、100m走やキックボクシング、サッカーなどの種目で競った。
ただ、これらのイベントによる熱狂は単なるショーケースではない。中国では、人型ロボットの現場投入に向けた「ラストワンマイル」を埋める動きが、政策、サプライチェーン、AI(人工知能)の3方向から同時に進んでいる。中国最大級のテックメディア36Krの日本語版である36Kr Japanが、それらの現状をレポートする。
まずは人型ロボットの成長を支える政策動向だ。
中国で産業政策やハイテク産業振興政策をつかさどる中国工業情報化部は、2023年に「人型ロボットイノベーション発展指導意見」を公表し、人型ロボット産業を国家戦略として位置付け、重点的に支援する方針を明確にした。2025年までに基盤となるイノベーション体制を確立し、国際的に先進レベルの製品を量産段階へ移行させるという工程表を示している。
政策の焦点は、AI/運動制御/アクチュエータやセンサーといった要素技術の強化に加え、危険作業や製造現場、サービス分野での活用拡大である。さらに標準化や安全基準の策定を通じ、産業基盤全体の信頼性を高めることも狙いに据えている。
中国は産業用ロボットの稼働台数で長年にわたり世界最大市場を維持している。溶接/搬送/組立といった工程での導入実績が厚く、サプライチェーンの構築や製造ノウハウの蓄積がされてきた。この既存の強固な基盤が、人型ロボットの関節モジュール、減速機、力覚/視覚センサー、制御装置といった部品開発にも生かされている。
その結果、従来は産業ロボットやAGV(無人搬送車)では対応が難しかった柔軟な工程の一部に、人型ロボットと搬送ロボットを組み合わせた新しい解決策が広がりつつある。工程変更への適応力や、人との協調作業に強みを持つ構成として期待が高まっている。
人型ロボットの実用化に向けて、特に2つの潮流が顕著となっている。
第1の潮流は、複数台の協調動作だ。従来は1台ずつが与えられた作業を独立してこなす段階にとどまっていたが、クラウドとエッジをつないで情報を共有することで、ロボット同士が役割を調整し合い、状況に応じて統合的に振る舞えるようになった。この進化は、実際の製造ラインでの人と同じ空間で安全に行う協働作業を大きく前進させている。
第2の潮流は、大規模AIモデルをロボットの身体知能に直結させる動きである。今進んでいるのは、自然言語や映像の入力をそのまま「体の動き」にまで結び付ける世界モデルの構築だ。
これまでロボットは「指令をコードに翻訳し、それを順に実行する」仕組みに依存していたが、現在はタスクを完了した未来の映像を自ら想像し、そのシナリオを頭の中で検証したうえで最適な動作を選ぶ仕組みが登場している。
この転換により、複数の手順を伴う長い作業でも成功率が飛躍的に高まり、これまでのロボットが苦手としてきた未知の環境や新しい機種への適応も短期間で可能になりつつある。
こうした「複数台の協調動作」と「世界モデルによる直感的な行動計画」という2つの潮流は、単なるロボットの性能向上にとどまらない。人型ロボットを「人と同じ空間で自然に協力できる、汎用(はんよう)的なパートナー」へと進化させる方向性を示している。
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