主要プレイヤーの動向でも触れたように、これまで研究開発やデモンストレーションにとどまりがちだった人型ロボットは、近年になって実際の現場に徐々に入り込み始めている。
まず工場では、組立や構内物流の領域でその存在感を見せ始めている。具体的には、箱のピックアップや整列、積み下ろし、簡易な目視検査といった作業で、従来のAGVや固定セル型ロボットでは対応が難しかった隙間工程に投入されている。
ここで重視されるのは単純な処理能力ではなく、作業が止まらないこと、そして人と同じ空間で安全に協働できる柔軟性である。
一方で展示やリテールの場面では、受付や案内、簡単なデモンストレーションといった役割を担うケースが増えてきた。単なる接客を超え、対話ログや問い合わせデータを収集、可視化し、運用部門のナレッジとして活用する取り組みも始まっている。
演出やイベントの領域では、多数のロボットを同期させて演技や動作を披露する試みが進んでいる。ここでは立ち位置制御や複雑な表現力が求められ、動作の「滑らかさ」が評価対象となる。
同時に、不測の事態に備えた安全設計や冗長化も試される場となっており、ショーケースであると同時に技術検証のフィールドとしての役割も果たしている。
このように、人型ロボットは工場/商業施設/イベントのそれぞれで異なる形で実用化されつつあり、「現場に入る」段階が一歩ずつ広がっている。
中国の人型ロボットは、工場やサービス、展示/イベントなど国内での応用領域を急速に広げつつある。
その一方で、今後の大きな課題は、これらの成果をどのように海外市場へ展開していくかにある。すでに産業用ロボットの分野では、中国は供給力とコスト競争力を背景に輸出を拡大しており、人型ロボットでも同じ流れが見え始めている。
鍵となるのは、単なる「低コスト製品」としてではなく、柔軟性や人との協働性、長時間稼働の安定性といった強みを示せるかどうかだろう。国内で積み重ねた実証実験や導入事例は、国際市場における信頼性の証拠として作用するはずだ。また、現地の人件費や規制環境に応じて投資回収モデルを調整できることも、中国製ロボットにとっての優位性となる。
人型ロボットはエンタメや展示など「見せる領域」から、物流/製造といった「止まらないことが価値になる領域」へと応用を広げてきた。こうした多様な実装経験は、海外の製造業やサービス業が抱える人手不足や効率化のニーズに重なる部分が大きい。すなわち、中国企業が国内で積み上げた応用の幅そのものが、海外進出の切り札になり得る。
今後、中国の人型ロボットが世界でどこまで受け入れられるかは、技術力やコストだけでなく、国際市場における信頼の獲得と現地ニーズへの柔軟な適応にかかっている。国内での試行錯誤を土台に、グローバルな標準や安全基準に対応しながら実績を重ねられるかどうかが、次の大きな論点となるだろう。
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