ここからは中国における主要プレイヤーを紹介する。
中国で最も注目を集める1社が「智元機器人(AgiBot)」だ。2023年設立の上海発スタートアップで、創業者でありCTO(最高技術責任者)の彭志輝氏は元ファーウェイの「天才少年」として知られている。
設立からわずか数カ月でユニコーン認定を受け、BYDや上海汽車をはじめ多数の企業や投資機関から巨額の資金調達を続けている。2024年には上海の工場で二足歩行型と車輪型ロボットの量産を開始し、2025年は数千台規模の生産を見込む。
製品ラインアップはフルサイズから小型、四足歩行型、清掃特化型までそろえ、用途に応じて役割を分担させる設計思想を持つ。代表的なシリーズには、フルサイズの人型「遠征A2」、小型の「靈犀X2」、サービス寄りの「精霊G1」、四足型の「D1」、清掃ロボット「商清絶塵C5」がある。
複数のロボットを連携させることで、現場ごとに異なる作業ニーズを柔軟にカバーできるのが特徴だ。特にA2シリーズは、360度自律移動を生かして案内や接客、さらには多言語での対話まで担う。
同社の戦略は一貫して「応用ファースト」と「先易後難(まずは簡単なことから、次に難しいことへ)」だ。
まずはショールーム案内など比較的導入しやすいシーンで長時間運転や安全性を磨き、その成果を基に工場での箱物搬送や仕分け、軽作業へと展開していく。実際、下半身を車輪化した半人型「A2-W」は、公開実証で3時間にわたり800個以上の通箱を無失敗で搬送した。ROIは地域の人件費に左右されるが、23年での回収を目標に、生産効率の向上と部材コスト削減を同時に進めている。
商用化にも積極的だ。2025年にはキャリア大手の中国移動(China Mobile)による人型ロボット調達案件を落札。このように大手顧客との直接契約を通じて量産実績を積み重ね、品質の底上げとエコシステム拡張を加速させている。また、サプライヤーを単なる下請けではなく「共創のパートナー」と位置付け、設計からライン立ち上げ、検証に至るまで一体で取り組むスタイルを徹底している。
UBTECH Robotics(優必選科技)は2012年創業の深セン発ロボット企業で、家庭向け教育ロボットから接客、警備などのサービスロボットまで幅広い分野を手掛けてきた。近年は産業向けヒューマノイド「Walker S1」をはじめ、人型ロボット分野にも注力し、国際的に注目を集める存在となっている。
吉利汽車の高級EVブランド「Zeekr」の5Gスマート工場では、数十台のWalker S1が同時に稼働し、連携して組立や検査など複雑な作業に取り組む世界初の試みが始まった。背景には、ロボット同士が情報を共有し合い、協調的に意思決定するための独自アーキテクチャ「BrainNet」と、マルチモーダル推論モデルによる高度な認識、判断能力がある。
これにより、人型ロボットは単体での自律にとどまらず、複数台が協働する形で現場の多様な工程を担えるようになりつつある。UBTECHはこの取り組みを通じてデータを蓄積し、産業分野での人型ロボット活用を本格化させる方針だ。
穹徹智能(Noematrix)は2023年11月に設立された上海拠点のスタートアップで、スマートロボット開発企業である非夕科技(Flexiv)からのスピンオフによって誕生した。創業メンバーには中国トップレベルの大学の1つ上海交通大学 教授の盧策吾氏らがいる。盧氏は、米スタンフォード大学 教授で著名なAI研究者である李飛飛氏のチームに所属した経歴を持つ。
設立当初から人型ロボットに焦点を当て、柔軟な操作性と高度なAI推論を組み合わせた次世代プラットフォームの開発を進めている点が特徴だ。独自の設計思想として「先端AIアルゴリズムを現実世界の複雑なタスクに落とし込む」ことを掲げ、産業応用を重視した開発を推進。設立間もない企業ながら、学術界と産業界の両方に強固な基盤を持ち、次世代人型ロボットの有力プレイヤーとして注目されている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.