「2025年大阪・関西万博」と連携した国際見本市/展示会として、「未来モノづくり国際EXPO」(2025年7月16〜19日、インテックス大阪)が開催され、会期中に「この国の『いのちかがやく未来』はどうしたら見えるのか」をテーマにした「ロボットSIerセミナー〜いのちかがやく未来にSIerができること〜」が行われた。セミナーの模様をレポートする。
「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、デジタル/ロボット/GXなどの先端技術を活用した国際博覧会「2025年大阪・関西万博」と連携した国際見本市/展示会として、「未来モノづくり国際EXPO」(2025年7月16〜19日、インテックス大阪)が開催された。
関西地域の中小企業だけでなく、万博連動イベントらしく、展示会場では海外企業からの出展もあり、国際色豊かなブース構成となっていた。
会期中には、「この国の『いのちかがやく未来』はどうしたら見えるのか」をテーマにした「ロボットSIerセミナー〜いのちかがやく未来にSIerができること〜」が、日本ロボットシステムインテグレータ協会(SIer協会)によって行われた。
ロボット教育の現場から、大阪工業大学 ロボット学科 教授の野田哲男氏が「大学のロボット教育を入口と出口から考える」と題して基調講演した他、SIer協会会員企業からは「未来へ伝えていくべき取り組み」として新たな技術や開発事例が紹介された。セミナーの模様をレポートする。
三菱電機から大阪工業大学に移った野田氏は、自身の経歴を振り返った後、主にモバイルマニピュレータを使った研究開発について紹介した。近年は下膳作業ロボットの開発などに取り組んでいるという。
ロボットは複数テーブルを巡回しながら皿を片付ける。片付けかごへの皿の積み重ね方にはベイズ最適化、巡回については注文履歴からテーブルの食器重量を考慮しながら無駄な経路を枝刈りして計算量を削減した。その他、テーブルの清拭(せいしき)も行える。食器内残飯などの処理には吸い取りを検討しているという。
また、移動ロボットの上でマニピュレータが大きく動くと転倒リスクがある。転倒しないような軌道および速度を得るアルゴリズムを用いて動作させていると紹介した。成果の詳細は2025年9月に東京科学大学 大岡山キャンパスで行われる「RSJ2025(第43回 日本ロボット学会学術講演会)」で発表される。
この他、図書館で返却された本を書棚に返すといった用途の開発や、果樹の収穫にも取り組んでいる。
メインテーマである大学教育については「変化していく新技術にいかにキャッチアップしていくかが重要だ」(野田氏)とし、大学自体への入学がやさしくなっていることについても触れつつ、大学での運動学や制御工学の講義などに実際に付いてこれるかどうかを見ることにしていると述べた。演習では学生に渡す部品は壊れやすいものにして、現場の肌感覚を直感的に得られるようにしているという。
続いて講演が4件行われたが、まず短いプレゼンテーションが2つ行われた。
電動機や機械部品を主に取り扱う商社である大喜産業の笠岡良平氏と、関連会社であるディックの棚澤基史氏は「『世界一安全なAMR』と称される、自律走行ロボット【MiR】のご紹介」と題して、同社が扱っているデンマーク製AMR(自律走行ロボット)の「MiR(Mobile Industrial Robots、ミア)」を紹介した。
MiRは2024年4月時点で、欧州、北米を中心に全世界約1万台以上の実績があるという。AMRは進行方向だけにLiDARが配置されることが多いが、MiRのロボットは360度全方向を常に認識しており、運用上袋小路に入る場合も後方への安全を担保しつつバック可能だ。
近接覚センサーも備えており、障害物や人も事前に回避する。マーカーを使ったときの停止精度は±3mmで、カラクリとの組み合わせやマップの作成、ルート設定も容易だという。
千代田興業 FASS事業部 営業グループ・サブチーフの鈴木陸斗氏は、「『機械化』は『人のレベルアップ』 人と機械、それぞれの得意を活かした働き方へ」と題して講演した。千代田興業は1953年創業。特にインドネシアで自動化メーカーとして知名度が高いという。国内では尼崎の工場で自動化を手掛けている。
鈴木氏は、日本の製造業労働者のエンゲージメント率(仕事への愛着率)が25%程度しかなく、その理由として給料が低い、やりがいがない、職場環境が悪いとされていることを紹介した。一方、「できれば辞めたくない」と答える人は76%となっており、この解決策が自動化であり、人が得意なことと機械が得意なことを分けるべきだと述べた。生産を自動化することで人は人にしかできない仕事をする。それによって人のスキルは上がり、それに応じて昇給する。すると離職が減るというわけだ。
ただ、中小企業には厳しい現実もある。初期投資へのためらい、生産の見通しが立たない、自動化しづらい工場レイアウト、また技術のはやり廃りがあり今はまだ投資したくない、人がやった方が早いといった声もある。これらの問題に対しては「1社ではなんともならない。もっと技術が上がり、入手しやすい状態になる未来が来るまではSIer同士が協力しながら頑張っていきたい」と鈴木氏は述べた。
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