ロボットSIerは「いのちかがやく未来」に向けて何をすべきか未来モノづくり国際EXPO(2/4 ページ)

» 2025年07月30日 07時00分 公開
[森山和道MONOist]

ロボットは多品種少量生産のための省力化装置

 続いて、2件の事例紹介講演が行われた。高丸工業 代表取締役の高丸正氏(いずれも高は、はしご高)は「ロボットとは、そもそも多品種少量生産のための省力化装置である」と講演した。高丸工業は兵庫県西宮市に拠点を置くロボットSIerで、1963年創業。同社は溶接を起点としている。

高丸工業 代表取締役の高丸正氏 高丸工業 代表取締役の高丸正氏

 高丸氏は、自身が初めて溶接ロボットを見たのは1978年、高校生のときだったと振り返った。当時、父親が経営していた同社が、自動溶接機から品種切り替えに対応できるアーク溶接ロボットに入れ替えることになったときの体験から、ロボットの本質を理解したという。つまり、大量生産には自動機械で対応できるが、従来の自動機では対応できなかった多品種化に対応するためにロボットが登場したのだ。

 ロボットは製品の多品種化に対応するために生み出された装置である。ところが、後年、自動車業界や家電業界がロボットを活用したことで「ロボットは大量生産向き」という認識が広まった。しかしこれは誤解であり。「本来、プログラム変更で柔軟に対応できるロボットこそ、多品種少量に最適だ」と高丸氏は強調した。

 高丸工業は自動車や電車、風力発電、防衛関係など幅広い業界のロボットSIを手掛けているが、一番取り組んでいるのは中小企業の多品種少量生産だ。人材育成のために「ロボットテクニカルセンター」も経営してロボットを扱える人の数を増やしている。

 中小企業のロボット導入の成果はロボット導入自体ではなく、その後、もうかったかどうかだ。今、若い社長に代替わりしたところではロボット導入のイノベーションが起きているという。また中小企業の多くでは特定の熟練職人しかこなせない作業が存在し、しかもその人材が高齢化している。そのため大企業が進める効率化よりも、むしろ属人化した職人作業の自動化による人代替が中小企業では求められている。

「ロボットと人間、どちらが早いか」は本質ではない

 ロボット導入のメリットは作業の標準化/デジタル化だ。最初はロボットを使う方が時間かかることもあるが、やがてロボットの方が圧倒的に効率がよくなる。文書作成や図面作成の仕事がデジタル化したのと同様だ。

 例えば、ロボットを使った溶接作業が「200アンペアでやった」と数値で表現されるようになれば、熟練技術が共有資産として企業に蓄積される。これにより属人性の排除が進み、「職人の感覚」に頼らない生産が可能になる。

 高丸氏は戦後に誕生した中小製造業の多くが設立から30年くらいたって代替わりによってNC工作機械を導入するようになった当時と同様、ロボットも若い経営者が率いる企業によって普及が進むと見ていると述べた。

高丸工業が構築したホタテ貝殻レーザー穴あけロボットシステム[クリックで再生]出所:高丸工業

 「ロボットと人間、どちらが早いか」と問われることは多いが、それは本質ではないという。自動化に際して生まれるデータこそが会社の資産になる。重要な点は再現性と継承性だ。ロボットは、作業を数値で定義し、記録として残せる。その価値は「過去の作業を資産化」し、「未来の作業を予測可能」にする力にある。

 設備投資のコスト対効果についても、単一作業ではなく、工程間搬送、治具レス対応、多機能ハンドリングなど複数機能を統合することで投資価値を最大化できる。ロボットを活用することで人間作業とは異なる手段を取れるし、幅広い可能性が生まれるからだ。ただし、SIerには現場作業の把握や、その場で顧客の求める要件をまとめられる構想力が必要だと強調した。

本格的な普及には、いかに操作を容易にするかがカギ

 ロボット導入の最大の障壁は使える人がいないことだ。これを解決すべく高丸工業は2009年からロボット教育事業を展開している。現在では年間1200〜1300人に安全資格を発行しており、国内最多の教育実績を誇る。教育とともに実験/実証の場も提供し、導入検討企業の「これなら使える」という確信につなげているという。

 中小企業の現場では、「客のいうことを全部聞いたら成り立たん」と高丸氏は述べた。顧客の要望に従うだけでは、現場に適した役に立つシステムは成立しないからだ。顧客とバトルを繰り返し、落とし所を見いだす。そのためには強い意志と現場知見が必要だ。実物と実機テストによる品質確認は必須であり、紙の仕様書や動画だけでは導入判断は下せない。

 高丸工業では遠隔溶接ロボット操作システム「WELDEMOTO」も開発している。PC上でのドラッグ&ドロップ操作でロボットを動かせるシステムで、どのメーカーのロボットも共通した操作で扱える。これにより高齢者や在宅勤務者もモノづくりの現場に参画できる道が開ける。溶接やグラインダーがけが自宅から遠隔で操作可能になれば、これまで就労が困難だった層にも活躍の場が広がる。外国人労働者をわざわざ日本に呼び寄せる必要もなく、時差を生かしたグローバルな夜勤シフトも可能になる。

高丸工業が構築したPC遠隔操作溶接ロボットシステム[クリックで再生]出所:高丸工業

 最後に高丸氏は、ロボット産業の将来像をコンピュータ業界の歴史と重ねた。PCがWindowsによって劇的に操作が楽になって普及したように、ロボットも誰でも直感的に使える環境が整えば爆発的に拡大すると考えているという。現状、ロボットを操作できる人は人口比で1万人に1人。本当にロボットを普及させるには、操作スキルのハードルを劇的に下げる必要がある。

 そしてスマートフォンを掲げ、「15年前、携帯電話がこのようなものになることは予想できなかった。10年後、『産業用ロボットがこんな機能を持つとは予想できなかった』といわれるようなロボットシステムに取り組んでいきたい」と述べて講演を終えた。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.