超電導体には低温超電導の金属系と高温超電導の酸化物系の2種類がある。低温超電導の金属系は液体ヘリウム温度(−269℃)まで冷却可能で、医療用MRI装置やシリコン単結晶引き上げ炉などで実用化されている。
実用化に向けた実証検証段階にある高温超電導の酸化物系は液体窒素温度(−196℃)以上でも超電導を示す。高温超電導の酸化物系にはビスマス系やレアアース系高温超電導などがある。レアアース系高温超電導は強磁場で強い臨界電流を実現する他、低温超電導の金属系と比べて運転温度を高温化できるためヘリウムフリーにも対応する。これらの特徴により、低温超電導の金属系を利用していた機器を小型化/軽量化できる。
今回、Helical Fusionがフジクラから追加調達した高温超電導テープ線材はレアアース系高温超電導体だ。同線材は、引っ張りや曲げに耐えられるように50〜75μmのニッケル合金基板上に酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化セリウム(CeO2)、超電導層(レアアース)、保護層(銀)を設け、周囲は銅の安定化層で覆われている。
フジクラ 超電導事業部長の大保雅載氏は「レアアース系高温超電導線は超電導層の結晶方位がそろわないとほとんど電気が流れない。しかし、超電導層の結晶方位をそろえて高温超電導テープ線材を製造するのは困難だ。そこで、当社は1991年にイオンビームにより結晶方位をそろえた中間層を形成し、これにより超電導層の結晶方位をそろえるイオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)を開発した。IBAD法を活用することでレアアース系高温超電導線を安定生産できる」とコメントした。
高温超電導線材の浸透により2010年代後半から小型核融合炉の開発が活発化している。特に欧米を中心に高温超電導線材の引き合いが増えている。
フジクラでは、米国でフュージョンエネルギー炉の実証に取り組むCommonwealth Fusion Systems(CFS)に、レアアース系高温超電導線材の納入を行っている。将来の需要増に向けて生産能力の拡大を推進している。
さらに、フュージョンエネルギープラント関連装置/システムの研究開発およびプラントエンジニアリングに取り組む京都フュージョニアリングに資本参加。京都フュージョンエンジニアリングが、英国原子力公社(UKAEA)から受注した「核融合炉用高温超電導マグネット領域の研究推進」も共同で行う。この研究でフジクラはコイルの設計/製造を担当している。
また、日本国内のフュージョンエネルギー産業の発展に貢献すべく、フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)に発起人として参画。J-Fusionは、「フュージョンエネルギー産業の創出により、日本と世界のエネルギーシステムに革新をもたらし、将来に安定でクリーンなエネルギーにより人類の発展に寄与すること」を目的としている。
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