核融合炉発電の研究を加速、ヘリカル型核融合炉初号機の完成は2034年を目標に材料技術(1/2 ページ)

ヘリカル型核融合炉の開発を進める国内ベンチャー企業のHelical Fusionは、オンラインで記者会見を開き、核融合エネルギーの社会実装に向け核融合科学研究所(NIFS)内に「HF共同研究グループ」を同月に設置することでNIFSと合意したと発表した【訂正あり】。

» 2024年04月19日 07時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 ヘリカル型核融合炉の開発を進める国内ベンチャー企業のHelical Fusionは2024年4月18日、オンラインで記者会見を開き、核融合エネルギーの社会実装に向け核融合科学研究所(NIFS)内に「HF共同研究グループ」を同月に設置することでNIFSと合意したと発表した。同グループの設置を受け、NIFSは岐阜県土岐市の拠点に専用実験スペースを設けた。

 これらにより、Helical FusionとNIFSとの協働を一層強化し、核融合エネルギーの社会実装に向けた研究/開発を加速する。なお、両社は、提携以前は学術的な個別の共同研究が中心だったが、提携後はヘリカル型核融合炉の社会実装を見据えた密な連携を図る方針を示している。

核融合炉を開発する背景やその利点

 NIFSからスピンアウトする形で2021年10月に設立したHelical Fusionは、日本発の磁場利用方式であるヘリカル型を採用した核融合炉の開発と関連要素技術の商業化を目指している。

 Helical Fusionがヘリカル型核融合の開発と商業化を目標とする背景にはエネルギーを取り巻く複数の課題がある。1つは現状の発電施設/設備が電力を創出するで、「温室効果ガス(GHG)の排出」「燃料の有限性/偏在性」「安全性」「環境依存性/環境負荷」のいずれかの問題を抱えている点だ。例えば、原子力発電は放射能漏れの危険があり、火力発電は枯渇の可能性がある石油を燃料としGHGを排出する。

 2つ目は世界人口の増加によりエネルギー需要が増加している点だ。世界のエネルギー消費量は2100年に2020年と比べ2倍になると予測されており、エネルギー源の増加が求められている。

 これらの問題を解消する手段として近年注目されているのが核融合発電だ。核融合発電は、超高温かつ高密度の環境に水素同位体を閉じ込めることで生じる核融合反応で発生する大きなエネルギーを発電に活用する次世代型の発電方式となる。具体的には三重水素や重水素を超高温かつ超高圧で加熱しプラズマ状態として双方の原子核を衝突させ合体させることで核融合反応を起こし中性子を発生させ、その中性子からブランケットを通して熱エネルギーを抽出し発電に利用する。

 なお、重水素と三重水素の核融合は同じ質量の石油の燃焼と比べて約1500万倍のエネルギーを創出するとされている。

核融合の仕組み 核融合の仕組み[クリックで拡大] 出所:Helical Fusion
Helical Fusion 代表取締役 CEOの田口昂哉氏 Helical Fusion 代表取締役 CEOの田口昂哉氏

 Helical Fusion 代表取締役 CEOの田口昂哉氏は「当社が目指す核融合発電では、CO2を排出しない他、海水に含まれている重水素やリチウムを燃料とするため燃料の枯渇リスクが小さい。安全性に関して、原子力発電と異なり核融合発電は暴走や連鎖反応が起きないため安全に運転できる。放射線廃棄物については、原子力発電で利用する核分裂ではウランやプルトニウムを活用するが、これらは使用後も数万年にわたって放射線を出し続ける。核融合の場合は数十〜数百年にわたって放射線を放出する低レベルの放射線廃棄物しか排出されない」と話す。

 加えて、同社が核融合発電炉で採用するヘリカル型は、ヘリカルコイル、プラズマ、ポロイダルコイルから成り、トカマク型と比べてプラズマ性能は劣るものの、プラズマ保持時間が長く恒久的な稼働に適している。「ヘリカル型は、磁場の力を用いて核融合反応を起こしてプラズマを閉じ込める方式で発電に向いている。加えて、核融合反応に十分なプラズマ性能を持つことも分かっている。トカマク型はプラズマ性能は優れるが、原理上プラズマの長時間の保持は難しいとされており、解決のめども立っていない」(田口氏)。

ヘリカル型核融合炉とトカマク型核融合の違い ヘリカル型核融合炉とトカマク型核融合の違い[クリックで拡大] 出所:Helical Fusion

 また、核融合は、燃料となる重水素と三重水素を約1億℃の超高温で10気圧程度の超高密度にしてプラズマ化した後、長い時間閉じ込めなければ発生しない。これらの条件を満たす核融合炉を実現するために、同社を含めて多様な企業がさまざまな方法で研究/実験を行っている。「汎用技術や準コア技術のブランケットとダイバータ、コア技術の超伝導マグネット、最重要技術のプラズマ生成/制御を統合して核融合炉を実現する最上流の専門領域が核融合炉の開発だ。NIFSで核融合炉の開発経験を積んだ当社だからこそ可能だと考えている」(田口氏)。

核融合炉開発の位置付け 核融合炉開発の位置付け[クリックで拡大] 出所:Helical Fusion

 同社では、核融合炉の開発を「人口一次エネルギー」を生み出す事業と捉えており、次世代ではこの事業が「産油国」や「オイルメジャー(大手石油会社)」の位置付けになると見込んでいる。核融合炉の開発により日本がエネルギー輸出国になる可能性もあると示している。

核融合炉の開発事業の位置付け 核融合炉の開発事業の位置付け[クリックで拡大] 出所:Helical Fusion
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