2024年もさまざまな取り組みが進められたマテリアルズインフォマティクス。それらを振り返りながら、2025年以降にマテリアルズインフォマティクスのさらなる浸透と拡大で重要な役割を果たすであろうAI活用やその成果について考察する。
マテリアルズインフォマティクス(MI)は、素材開発を積み重ねる中で培ってきた実験データに、シミュレーションやAI(人工知能)などを組み合わせて、従来にない新たな物性や機能を有する素材の探索や開発をデジタルの力で効率良く進める開発手法だ。
素材産業をはじめとするさまざまなメーカーがMIにより解消を期待している課題には下記のようなものがある。
2024年は素材メーカーがMIでシミュレーションとAIを活用しさまざまな成果を上げた1年だった。今後もMIにおけるシミュレーションやAIの活用のユースケースは多数発表されると推測できる。
そこで、MONOist素材/化学フォーラムの2025年の新年展望では「MIにおけるシミュレーションやAIの活用と成果の現在および未来」をテーマにこれまでの取材内容を振り返りながら2025年以降を見据えた考察を述べたいと思う。
MIでシミュレーションは新材料の状態などを理解するために利用するケースが多い。一例として、シミュレーションとVR(仮想現実)技術を用いたレゾナックの材料開発事例を紹介する。
レゾナックではこれまで材料間で生じる分子レベルの相互作用について、分子シミュレーションを用いて計算し、結果の解析は計算科学の専門家に頼るケースが多かった。
レゾナック 理事 兼 計算情報科学研究センター長の奥野好成氏は、「無機基板と有機分子の吸着性や接着性など、異なる材料の界面に対する相互作用については分子動力学計算を行う。計算結果は、グラフソフトなどを利用し2次元のイメージ画像に変換して解析する。しかし、2次元のイメージ画像では、熟練の計算科学専門家でも、分子結合をはじめとする挙動メカニズムの解明が困難で、統計的な解析にとどまることが多く、材料開発につながるレベルの分析が非常に難しかった」と話す。
そこでレゾナックでは、異なる材料間の界面に対する相互作用について分子動力学計算で導き出した結果などを市販のソフトウェアに取り込み3Dモデルとし、ヘッドマウントディスプレイで見られる技術を開発した。
レゾナックはこの技術を導入することにより、0.1nmのスケールで分子構造の3Dデータを直感的に操作しながら、3次元的に基板と分子の界面を確かめられるようになった。結果として、計算科学の専門家と材料開発の担当者が、基板の原子と有機分子の分子鎖が結合する様子などを理解しやすくなり、解析が容易になっている。
奥野氏は、「従来、当社の計算情報科学研究センターは、シミュレーションベースで新素材の開発を達成しても、2次元のイメージ画像や計算データでは、素材開発の担当者がシミュレーションを深く理解できず、実際に開発されないというケースがあった。今回の技術により、素材開発の担当者がシミュレーション結果を把握しやすくなっただけでなく、計算科学と材料開発の専門家からさまざまなアイデアがもらえるようになり、新素材の開発がスムーズになった」と効果を語った。
このようにMIでシミュレーションとVR技術や3D技術を併用することで、効果を高められるため2025年もシミュレーションとさまざまな可視化技術を組み合わせ、素材開発で成果をあげる企業が増えるとみられる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.