名古屋大学は、2,2,2-トリフルオロエタノールを添加した単層カーボンナノチューブ電極が、ペロブスカイト太陽電池の耐久性を大幅に向上させることを発見した。
名古屋大学は2024年12月24日、2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)を添加した単層カーボンナノチューブ(SWCNT)電極が、ペロブスカイト太陽電池の耐久性を大幅に向上させることを発見したと発表した。
ペロブスカイト太陽電池の電極には、銀や金などの金属がよく用いられる。しかし、金属電極によりペロブスカイト構造が分解され、それが同電池の最大の課題である耐久性の低さの要因となっている。
研究グループは、金属の代わりにSWCNTを用いた電極を使用し、SWCNT電極の性能向上のためp-ドーパントにTFEを用いた。従来のp-ドーパントは硝酸などの強酸性で、電極に直接滴下するとペロブスカイト層を破壊してしまうが、TFEは弱酸性で濃度調整も必要なく、スピンコートで容易に滴下できる。
今回の実験では、SWCNT電極のみの場合は13.0%だった発電効率が、TFEの滴下により14.1%に向上した。また、SWCNT電極の表面シート抵抗が37.4Ω/sqから32.7Ω/sqに下がった。電荷トラップ密度も、9.77×1015cm-3から8.64×1015cm-3に下がり、光起電力特性を向上させる効果があった。
その後、大気中において未封止の状態でセルを保管し、発電効率の経時変化を測定した。30日後に発電効率は9.2%となったが、TFEの再滴下により10.3%に回復したことから、繰り返し添加することで耐久性を保持できる可能性が示された。
さらに、同じ環境で260日間保管したセルにTFEを再添加すると、発電効率は8.6%となった。一方、TFE未滴下のSWCNT電極のみのセルでは4.8%となり、耐久性の向上にTFEが大きく貢献することを確認した。
従来の銀電極を使った参照セルは、260日経過すると銀電極の周りでペロブスカイト層が黄色化して、PbI2結晶に分解の進行が見られ、発電もしなかった。一方、SWCNT電極にTFEを滴下した太陽電池では、ペロブスカイト層の構造が維持されていた。
280日後、銀電極を用いた太陽電池は、ペロブスカイト層が完全に分解し全く発電しなかった。また、TFE滴下なしのSWCNT電極を使った太陽電池は、発電効率が1.7%まで低下した。TFEを滴下したSWCNT電極を用いた太陽電池は、SWCNT電極周辺のペロブスカイト層は変色せず、発電効率8.1%となった。これらの結果から、TFEが長期耐久性に効果を示すことを確認した。
続いて、X線光電子分光法(XPS)でTFEとエタノール(EtOH)をそれぞれ滴下したSWCNT表面を測定したところ、TFEのケースではCOOやCOに由来する官能基のピーク強度が減少した。30日後のX線回折測定(XRD)では、TFE滴下なしの太陽電池において、12度付近にPbI2結晶のピークが現れ、TFEを滴下した太陽電池ではピークは現れなかった。これらから、TFEを滴下してもペロブスカイト結晶が維持されていることが分かった。
同PbI2結晶は、大気中の湿気や酸素により、ペロブスカイト結晶が経時変化するときに少しずつ分解して生成されたものと思われる。TFEの滴下によりSWCNTの添加効果で表面シート抵抗が低下することに加え、表面に付いた親水性物質を除去できる。TFEはペロブスカイト結晶の表面にも直接塗布でき、酸素や湿気に対する分解反応を抑える保護層として一時的に機能したと考えられる。この働きは、これまでの強酸性p-ドーパントではなかった効果であり、繰り返し添加することで280日の長期耐久性を封止なしで達成した。
ペロブスカイト太陽電池の実用化において、耐久性が最大の課題だったが、今回、SWCNT電極とTFEを使うことで飛躍的に改善することに成功した。大気中での使用でも耐久性が維持され、添加方法も容易であるため、産業用途にも適用できる。さらにTFEは、PFAS規制の対象物質には該当せず、SWCNT電極とペロブスカイト太陽電池の性能向上が可能となる。
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