熟練技能者の操作ログからノウハウ抽出、DXシステム開発検証を4分の1にする技術製造現場向けAI技術

三菱電機は、システム操作ログからオペレーターの経験や知見に基づくノウハウを可視化する「操作ログドリブン開発技術」を開発した。開発検証期間を4分の1に短縮できる。

» 2025年02月26日 08時30分 公開
[三島一孝MONOist]

 三菱電機は2025年2月25日、システム操作ログからオペレーターの経験や知見に基づくノウハウを可視化する「操作ログドリブン開発技術」を開発したと発表した。オペレーターの知見に依存しがちだったシステムの運転管理や維持管理を高度化するDX(デジタルトランスフォーメーション)システム開発などに活用可能だという。

 電力プラントや水道、下水道施設は、運転管理や維持管理において、さまざまなセンサーから得られる大量の信号を監視、制御しているが、突発的な異常に対応するため、多くがオペレーターによって担われている。しかし、労働力不足が深刻化する中で、これらを人手で全てカバーするのが難しくなり、DXなどでこれらを補う必要が出ている。オペレーションの自動化を想定したDXシステム開発では、その初期段階にオペレーターや専門家へのヒアリングを行い、システムの要件や必要な機能を明確にする要求分析が必要だが、ヒアリングでは要件を吸い出せず最適なシステム化ができない問題を抱えている。

 そこで、三菱電機では今回、システムの操作ログを可視化し、オペレーターがシステム画面に表示している信号の関連性から「同じ目的の操作フェーズ」を自動で抽出して可視化する「操作ログドリブン開発技術」を開発した。

 操作ログドリブン開発技術はAI解析を通じて、操作ログの意味や意図を読み解き、それを分類して可視化することで、複雑な操作のノウハウを共有可能とする技術だ。これを用いることで、ヒアリングだけでは把握しきれない操作の実態を収集、解析し、暗黙知を可視化できる。また、関係者間でノウハウを共有しやすくなるため、技術継承を効率化するとともに、DXシステムの要求分析をより的確かつ短期間で実現できる。要求分析をもとにDXシステムのプロトタイプを早期に構築し、その操作ログを本技術で取得して改良を繰り返すことで効率的にブラッシュアップが可能となり、DXシステムの開発期間の大幅な短縮に貢献する。

photo 三菱電機 先端技術総合研究所 ソリューション技術部長の山口喜久氏

 三菱電機 先端技術総合研究所 ソリューション技術部長の山口喜久氏は「水道や発電などの公共インフラ施設のオペレーションでは、人手によるオペレーションが中心になっている。一方、大規模な設備から大量のデータが生まれており、操作手順や運転ノウハウが複雑化し、簡単にマニュアル化できないという問題を抱えている。熟練技術者が個々に知見を積み上げて暗黙知も含めて運用してきたという経緯があり、システム化するのが非常に難しかった。プラント向けシステム開発の中で出てきたこれらの課題に対し、なんとか技術で解決できないかと考えて、2020年頃から検討を開始した」と開発の経緯について語る。

photo 操作ログドリブン開発技術の概要[クリックで拡大] 出所:三菱電機

 操作ログドリブン開発技術では、具合的にはオペレーターの分析信号を3つの側面から可視化する。1つ目が「場所」だ。制御システム内のどの領域で操作が生まれているのか、またそれに伴う事象はどういうものかを示す。2つ目が「期間」だ。操作がどういう期間で生まれたかを確認し、時系列などを確認する。そして、3つ目が信号データの「順序と長さ」だ。オペレーターが長く見ている信号データを確認し、どういう事象に注目することで対応を決めているのかを把握する。操作や注目データの可視化ができることで、複数オペレーターの操作手順の比較を行えるため、改善や技能伝承などに役立てられる。

photo オペレーターがどういう形で信号データを見て操作しているのかを可視化することで暗黙知を共有可能とする[クリックで拡大] 出所:三菱電機

DXによる自動化システムの開発検討期間を4分の1に

 さらに、オペレーターの操作内容が可視化できるようになれば、これらを自動化するためのDXシステムの開発期間の短縮にも役立つ。「DXシステムを開発するためには要求分析を行うためにオペレーターへのヒアリングを行い、要件を検討する必要があるが、ヒアリング内容の抜け漏れなどが発生しがちで精査するために手戻りなどが多く発生する。さらに仕様検討についても机上での検討を土台とすると現実との差が生まれ手戻りが多く発生するが、操作ログドリブン開発技術を用いれば現実的なデータを基にできるために大幅に短縮できる。要求分析は6カ月から1カ月に、仕様策定は6カ月から2カ月に短縮できると想定する」と山口氏は述べている。

photo DXによる自動化システムの開発検証期間を4分の1に短縮[クリックで拡大] 出所:三菱電機

 操作ログドリブン開発技術は2025年度(2026年3月期)に一部顧客企業と実証実験を行う計画だ。2027年度からは公共インフラシステムでの実用化を見込む。また、製造業や医療、物流、建設など他の業界にも応用し、同社のデータ基盤「Serendie」との連携なども計画する。「まだ利用体系や価格などについては決まっていないが、既存のシステムの運転支援機能として提供するアイデアなど、さまざまな方向で検討を進めている。サブスクリプションサービスも検討しているが、実証をやりながら確認していきたい」(三菱電機 先端技術総合研究所 ソリューション技術部 データ・インテリジェンス基盤グループ グループマネージャーの上野洋平氏)としている。

 なお、操作ログドリブン開発技術は情報処理学会の「INTERACTION 2025」(2025年3月2~4日)で発表するという。

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