IIFES2024 特集

作業分析の時間を99%削減 教師データ不要の三菱電機のAI技術人工知能ニュース

三菱電機は2024年1月25日、反復作業を撮影した動画から作業分析を行える、教師データの作成が不要な「行動分析AI」の開発を発表した。作業分析に要する時間を従来比で約99%削減できる。

» 2024年02月01日 06時30分 公開
[池谷翼MONOist]

 三菱電機は2024年1月25日、反復作業を撮影した動画から作業分析を行える、教師データの作成が不要な「行動分析AI」の開発を発表した。作業分析に要する時間を従来比で約99%削減できる。

骨格検知AIで要素作業の区切りを自動判定

 行動分析AIは三菱電機のAI(人工知能)技術である「Maisart」の1つで、2019年に発表した技術を発展させたものだ。製造現場の自動化を進める上では、要素作業ごとに各作業者の所要時間などを定量的に測定して行う作業分析のプロセスがとても重要になる。しかし、人手による分析には時間がかかる。対策としてAIによる分析が考えられるが、モデル構築には大量の教師データが必要だ。これらの解決策となり得るのが行動分析AIである。

これまでの作業分析における課題 これまでの作業分析における課題[クリックして拡大] 出所:三菱電機

 観測データの生成過程をモデル化したAIの一種である「循環する身体動作の確率的生成モデル」を活用することで、教師データの作成を不要にした。動画以外で必要となる事前情報は、反復する作業1サイクル当たりの大まかな作業時間のみだ。

 作業中に同じ身体動作が繰り返されることに着目し、撮影した動画内の身体動作を骨格検知AIで自動検知して、波形データとして表現する。波形データのうち、類似したものは同じ要素作業、それ以外は異なる要素作業として分類して、切れ目時間を測定する。他と異なる波形の区間は標準外作業として検知される。

循環する身体動作の確率的生成モデルによって、動作を波形データで表現する 循環する身体動作の確率的生成モデルによって、動作を波形データで表現する[クリックして拡大] 出所:三菱電機

 分析結果は、分類した要素作業とそれに対応する映像を合わせて確認できる。標準外作業に分類された作業も映像で確認可能だ。また、反復作業から平均的な所要時間であると思われる要素作業の映像をつなぎ合わせて、「代表作業動画」も作成できる。偶然うまくいった、あるいはいかなかった作業を排することで、作業者の普段の作業に近い動きに基づき分析しやすくなる。

分析結果は動画とともに確認できる。標準外作業の動画も確認可能[クリックして拡大] 出所:三菱電機

 GUI上で要素作業数を減らすなど、ユーザーの要望に合わせて粒度を変更することも可能だ。要素作業ごとの時間のばらつきをグラフで可視化し、他の作業者とも比較できる。熟練者と初心者の作業動画を比べて、個々人に合わせた改善計画を立案できるようになる。

時間のばらつきを定量的に比較できる 時間のばらつきを定量的に比較できる[クリックして拡大] 出所:三菱電機

 行動分析AIを活用することで、人手による従来の手法と比較して作業分析の時間を約99%短縮できる。人手による分析結果を真とした場合、要素作業の開始/終了時間の検出作業の内、約90%を±1秒程度の範囲に収めるように処理できるという。三菱電機 先端技術総合研究所 センサ情報処理システム技術部長の蔦田広幸氏は「作業者ごとの作業のばらつきを正しく評価するための図やグラフの作り方は昔から知られていた。しかし、正しい評価のためには多くのサイクルの分析が必要で、負担も大きかった。行動分析AIであれば、短時間で簡単にグラフを作成できる」と説明する。

 また深層学習を使用しておらずAI自体の計算量が少なく済むため、GPUを使うことなく市販のノートPC上で動作させられる。AIを活用した他の作業分析用のソフトウェアやサービスに比べて導入コストを抑えられるという利点もある。

 分析結果を、他のAIの教師データとして活用することも可能だ。例えば、「手順と異なる作業を検知する『異常作業検知AI』などを短時間で作成することができるようになる」(蔦田氏)という。

分析結果を他のAIの教師データにすることも可能 分析結果を他のAIの教師データにすることも可能[クリックして拡大] 出所:三菱電機

 行動分析AIの主要な適用先としては、梱包作業や検査作業、組み立て作業などが挙げられれる。製造現場以外でも、物流現場などでも適用できる。逆に繰り返し作業が表れにくい、個別のカスタマイズ生産などには適用しづらい。

 三菱電機は産業用オートメーションと計測技術の展示会「IIFES 2024」(2024年1月31日〜2月2日、東京ビッグサイト)で、行動分析AIのデモンストレーションを展示する予定。今後、社内外で検証を進めて、2025年度以降での製品化を目指す。

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