1956〜57年にトヨタのクルマづくりを変えた生産技術の大変革トヨタ自動車におけるクルマづくりの変革(3)(7/7 ページ)

» 2024年12月10日 07時00分 公開
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6.トヨタディーゼル店とディーゼルエンジンの研究開発

 1957年2月1日には定価販売制が採用された。同月5日、トヨタ自販のバンコク営業所が発足し(5月に支店に昇格)、「トヨタディーゼル店」が営業を開始した。同年3月にDA60系「大型トラック」の発表を機に、販売会社として「トヨタディーゼル株式会社」が発足し、大型商用車市場に本格的に進出するため、1957年2月から1958年4月にかけて、札幌、宮城、東京、横浜、静岡、名古屋、大阪、神戸、福岡に9社が新設された。また、エチオピアへ「クラウン」などを初輸出した。

 ここで、トヨタ自工におけるディーゼルエンジンの開発について簡潔に見ておく。

 トヨタのディーセルエンジン開発は、1939(昭和14)年ごろ、ユンカース製ディーゼルエンジンを参考に開発が始まった。戦後の1948年春ごろ、あらためてディーゼルエンジンの研究開発が蒲田工場内で始まり、専門家の長野利平や岡剛らが招聘された。その結果、1950年には、図21(a)に示すようにY型およびZ型のディーゼルエンジンが5台ずつ試作された。

図21 図21 ディーゼルエンジンの開発[クリックで拡大] 出所:トヨタ自動車

 ディーゼルエンジンの開発は1954年10月に再開され、翌1955年8月には図21(b)に示すようにD型ディーゼルエンジンの試作機が完成した。同エンジンをBA型トラックに搭載した改造試作トラックが製作され、各種試験と改良を行い、1957年3月にDA60型トラックとして発売した。D型ディーゼルエンジンの製作は、トヨタグループ各社が協力し、シリンダーブロックとシリンダーヘッドの鋳造と機械加工は豊田自動織機製作所、クランクシャフトの機械加工は豊田工機、歯車類の機械加工は愛知工業、噴射ポンプとディーゼルエンジン用電装品は日本電装、組立はトヨタ自工が分担した。

7.トヨタ自販主導の初代トヨペット・コロナST10型を発売

 1957年5月、百貨店でトヨタ車の販売を開始(東京の白木屋、京都の大丸)。沖縄に国産乗用車初の本格的輸出として「クラウン」20台を船積み。トヨタ自販の一事業部門として「中部日本自動車学校(現トヨタ名古屋教育センター)」、いわゆる自動車/二輪教習所が設立された。

 同月にはダイハツ工業が軽三輪トラック「ミゼット」を発売。同年6月16日、タイのバンコク市にトヨタ自販のバンコク支店が開設された。また同月、富士精密工業が「プリンススカイライン」を発売。そして1957年7月には、図22に示した初代「トヨペット・コロナST10型」※15)が発売された。

図22 図22 初代「トヨペット・コロナST10型」と発表会の様子[クリックで拡大] 出所:トヨタ自動車

※15)初代「トヨペット・コロナST10型」は1957年7月1日に発売された。車両型式のST10は、「S」がS型エンジン搭載を、「T」がコロナ用T型ボディーを、「10」が1番目モデルの標準型セダンを表す。搭載エンジンは、1947年に開発されたS型エンジンで、これはSA型乗用車、SB型トラックにも利用された。ST10型は、4人乗り小型自動車で、すぐに入手可能な既存の部品を使用して設計したことが特徴である。RS型クラウンに用いられている足周りや駆動、制動、操舵などの各部品、RR型マスターのボディー部品などが利用された。

 初代トヨペット・コロナST10型は、トヨタ自工の反対を押し切って、トヨタ自販 社長の神谷氏が、コロナST10型のボディー設計/製造の開発を関東自動車工業に委託し完成車にした。その主な理由は次の2つであった。

  1. トヨタ車販売のトヨペット店は、1957年6月1日までに48店が設立、全国展開が完了していた
  2. 販売車種は、「トヨエース」小型トラックSKB型、マスターラインのピックアップRR16型、ライトバンRR17型の商用車3種類で、中心となる乗用車がない

 表4は、初代トヨペット・コロナST10型の仕様である。当時、トヨタ自工では、1000ccクラスの新型エンジンと新小型乗用車を開発中であった。新型エンジンは、P型エンジンとして完成し、ST10型の発表から2年後、1959年10月にコロナPT10型に搭載された。そして、翌1960年3月にコロナは全面改良され、2代目「トヨペット・コロナPT20型」が登場する。

項目 内容
エンジン S型(995cc、33馬力)
全長 3912mm
全幅 1470mm
全高 1518mm
車両重量 960kg
最高速度 時速90km
表4 初代トヨペット・コロナST10型の仕様(1957年) 出所:トヨタ自動車

 2代目トヨペット・コロナPT20型では、トヨペット・クラウンRS型と同様に、内製ボディーを架装した完成車ボディーを出荷するが、そのためには、車体、塗装、総組立などの各工程の能力増強が必要であり、挙母工場は手狭だった。

 既に次期コロナモデルの開発(1次試作開発ナンバー:30A)は進行中で、その生産設備を含めて、将来のための乗用車生産工場の新設(元町工場)が検討された。

 1959年、元町工場が操業を開始する。元町工場については次回以降で紹介する。(次回に続く)

参考/引用文献

  1. トヨタ自動車75年史
  2. Wikipedia
  3. 「産業技術記念館」総合案内、トヨタ産業技術記念館、1994年6月
  4. 武藤一夫「トヨタ自動車におけるデザイン・ものづくりプロセスの変革 第1回」、Gichoビジネスコミュニケーション、実装技術、Vol.30、No.2、42〜47、2014年2月
  5. 武藤一夫「トヨタ自動車におけるデザイン・ものづくりプロセスの変革 第2回」、Gichoビジネスコミュニケーション、実装技術、Vol.30、No.4、36〜41、2014年4月
  6. 武藤一夫「トヨタ自動車におけるデザイン・ものづくりプロセスの変革 第3回 1960年代後半から1970年代のトヨタ自動車のものづくりの形態」、Gichoビジネスコミュニケーション、実装技術、Vol.30、No.7、36〜41、2014年7月
  7. 武藤一夫「トヨタ自動車におけるデザイン・ものづくりプロセスの変革 第4回 1950年代後半から1970年ころまでのものづくり形態の概要 その1」、Gichoビジネスコミュニケーション、実装技術、Vol.31、No.3、40〜44、2015年3月
  8. 武藤一夫「トヨタ自動車におけるデザイン・ものづくりプロセスの変革 第5回 1950年代後半から1970年ころまでのものづくり形態の概要 その2」、Gichoビジネスコミュニケーション、実装技術、Vol.31、No.11、42〜47、2015年11月
  9. 武藤一夫「トヨタ自動車におけるデザイン・ものづくりプロセスの変革 第6回」、Gichoビジネスコミュニケーション、実装技術、Vol.34、No.2、44-49、2018年2月
  10. 武藤一夫「トヨタ自動車におけるデザイン・ものづくりプロセスの変革 第7回」、Gichoビジネスコミュニケーション、実装技術、Vol.34、No.5、40〜48、2018年5月
  11. 武藤一夫「トヨタ自動車におけるデザイン・ものづくりプロセスの変革 第8回」、Gichoビジネスコミュニケーション、実装技術、Vol.34、No.10、42〜47、2018年10月
  12. 武藤一夫「トヨタ自動車におけるデザイン・ものづくりプロセスの変革 第9回」、Gichoビジネスコミュニケーション、実装技術、Vol.34、No.2、42〜47、2018年2月
  13. 武藤一夫「はじめてのCAD/CAM」、工業調査会、2000年2月(B5判/285ページ)
  14. 武藤一夫「進化しつづけるトヨタのデジタル生産システムのデジタルのすべて」、技術評論社、2007年12月(A5判/271ページ)
  15. 武藤一夫「図解CAD/CAM入門」、大河出版、2012年8月(B5判/305ページ)
  16. 武藤一夫:実践メカトロニクス入門、オーム社、2006年6月(B5判/228頁)
  17. 武藤一夫:実用CAD/CAM用語辞典、日刊工業新聞社、1998年6月(B6判/316頁)
  18. 武藤一夫:エンジニア必携トヨタに学ぶデジタル生産・事例・用語集、産業図書、2021年12月(A5判/887ページ)
  19. 武藤一夫、高松英次:「これだけは知っておきたい金型設計・加工技術」、日刊工業新聞社、1995年1月(B5判/256ページ)

筆者プロフィール

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武藤 一夫(むとう かずお) 武藤技術研究所 代表取締役社長 博士(工学)

1982年以来、職業能力開発総合大(旧訓練大学校)で約29年、静岡理工科大学に4年、豊橋技術科学大学に2年、八戸工業大学大学に8年、合計43年間大学教員を務める。2018年に株式会社武藤技術研究所を起業し、同社の代表取締役社長に就任。自動車技術会フェロー。

トヨタ自動車をはじめ多くの企業での招待講演や、日刊工業新聞社主催セミナー講演などに登壇。マツダ系のティア1サプライヤーをはじめ多くの企業でのコンサルなどにも従事。AE(アコースティック・エミッション)センシングとそのセンサー開発などにも携わる。著書は機械加工、計測、メカトロ、金型設計、加工、CAD/CAE/CAM/CAT/Network,デジタルマニュファクチャリング、辞書など32冊にわたる。学術論文58件、専門雑誌への記事掲載200件以上。技能審議会委員、検定委員、自動車技術会編集委員などを歴任。


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