1956〜57年にトヨタのクルマづくりを変えた生産技術の大変革トヨタ自動車におけるクルマづくりの変革(3)(5/7 ページ)

» 2024年12月10日 07時00分 公開

5)金型製作工程

 創業時のAA型乗用車では、例えばフェンダーを1つ作成するための成形は「絞り」「外形の穴抜き」「曲げ」「端きり」「穴あけ」「寄せ抜き・曲げ」「寄せ・曲げ」「寄せ・抜き」といった7つの工程から構成されていた。

 金型が登場する以前は図14に示すようなアテパン、ドアスプーン、パネルスプーン、板おこし、キリバシ柳刃、ツカミバシ、ハンマー、影タガネ各種、メタルケースなどの板金工具を用いて、金属平板をキリバシ柳刃で大まかな形状にハサミのようにして切り、ハンマーでたたいたりして曲面形状を作っていた。

図14 図14 アテパン、ドアスプーン、パネルスプーン、板おこし、キリバシ柳刃、ツカミバシ、ハンマー、影タガネ各種、メタルケースなどの板金工具[クリックで拡大] 出所:トヨタ自動車、トヨタ産業技術記念館

 最初の金型は、1935年に手彫りで製作されたAA型乗用車の前部のフェンダーの深絞り型や後部大板のリアクオーターの深絞り型だけで、プレス成形機で成形した。

 図15は、1955年に発表された初代クラウンにおける、フェンダー用絞り型を用いた手彫り製作工程の作業の流れである。図16には、手彫りプレス成形金型製作に用いた手作業用工具類を示す。

図15 図15 初代クラウンのフェンダー用絞り型の手彫り製作工程[クリックで拡大] 出所:トヨタ自動車、トヨタ産業技術記念館の提供資料を基に作成
図16 図16 手彫りプレス成形金型製作に用いた手作業用工具類[クリックで拡大] 出所:トヨタ自動車、トヨタ産業技術記念館の提供資料を基に作成

 まず、荒加工領域でははつりを行い、工具は図12に示すように電動はつり機と各種はつり工具を目的に合わせて交換して用いる。次に、中仕上げ領域では、やすりやきさげ掛けを行い、工具は粗目、中目、細目の各種やすり、きさげ、スクレイパーを用いる。そして、仕上げ領域で行う磨きの工具は砥石で、これにも粗目、細目があり、粗目の後に細目を用いる。大変な肉体労働であり、しかも神経を使う熟練さが要求される。最終的には、上下の金型を合わせ、亀裂検査に使用する朱色の粉末状塗料である光明丹で当たりを見て、凸部をならして最終的な金型の仕上げ面を作成する。

 先述したように、当時の成形金型は手彫りであったため形状精度が低かった。それ故、金型の不備による成型品の不具合部を図10で示したようなハンマーやハサミなどの工具を使って、職人が手作業で板金加工して修正して完成品に仕上げた。このため、形状や寸法精度があまりよくないので、ボディーに組み付けるときは、現物同士を合わせて穴を修正したり、穴をこじ開けて無理やり取り付けたりしていた。

 図17には、トヨタ産業技術記念館に展示されている、AA型乗用車の後部のプレス深絞り後の成形品を修正する様子を示す。

図17 図17 AA型乗用車後部のプレス深絞り後の成形品を修正する様子[クリックで拡大] 出所:トヨタ自動車、トヨタ産業技術記念館

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