本連載第30回および第96回で、デジタルヘルス先進国エストニア発のICTの事業展開を紹介したが、今回はバイオバンクの取り組みを取り上げる。
本連載第30回および第96回で、デジタルヘルス先進国エストニア発のICTの事業展開を紹介したが、今回はバイオバンクの取り組みを取り上げる。
本連載第7回で、北欧デンマークのナショナルバイオバンク(関連情報)を取り上げたが、北欧・バルト諸国は、バイオバンク構築/運用の取り組みを積極的に行ってきた。ICT先進国エストニアで重要な役割を担ってきたのが、タリンに次ぐ第2の都市タルテュにあるタルテュ大学(図1参照、関連情報)である。
直近では、2024年4月2日、タルテュ大学ゲノミクス研究所のアネッテ・カルナペンキス氏らによる研究チームが、Scientific Reports誌に「エストニアの集団における血漿タンパク質レベルの遺伝学的決定要因」と題する論文を発表している(関連情報)。この研究では、タルテュ大学ゲノミクス研究所が運営に関わるエストニアバイオバンク(EstBB、関連情報)の18歳以上ドナー20万人超規模のコホートを利用している。これは、エストニアの成人人口の約20%に該当し、コホートに参加する全ドナーの遺伝子型データが利用可能になっている。
アネッテ・カルナペンキス氏らの研究チームは、最大500人の個体で測定された326種の血漿タンパク質に対して、一般的な遺伝的変異と希少な遺伝的変異、そしてコピー数多型(CNV)の影響を評価した。具体的には、157のタンパク質特性に対して184のシス(cis)および94のトランス(trans)のシグナルを同定した。また、101のcisおよび87のtransの信頼性のあるセットに細分化した上で、血漿タンパク質レベルに影響を与える遺伝的変異の包括的なリソースを提供し、同定された効果の解釈を提供している。
カルナペンキス氏らの研究は、エストニア研究評議会、欧州連合(EU)の欧州地域開発基金および2014〜2020年研究開発促進プログラム「ホライゾン2020」からの支援金を受けている。オープンサイエンスの考え方(関連情報)に基づいて、全ての研究データは、本論文および補足情報ファイルで公開されている。
他方、同じく2024年4月に、タルテュ大学ゲノミクス研究所のマリス・アルヴァ氏らの研究チームが、The Lancet Regional Health- Europe誌に「遺伝的傾向と抗精神病薬の治療効果が統合失調症におけるメタボリックシンドロームに及ぼす影響:エストニアバイオバンクを利用した10年間の追跡研究」と題する論文を発表している(関連情報)。
この研究では、前述の研究と同じく、エストニアバイオバンクから得られた実際の健康医療データを利用して、統合失調症(SCZ)患者における遺伝的傾向と抗精神病薬の治療がメタボリックシンドローム(MetS)の発症に与える影響を10年間追跡調査している。具体的には、抗精神病薬の治療パターン、MetS形質の遺伝的傾向、MetSの予後および体重指数(BMI)の推移を、SCZ患者(n=677)と年齢および性別にマッチした対照群(n=2708)と比較している。
アルヴァ氏らの研究チームは、以下のような研究成果を示している。
アルヴァ氏らの研究は、タルテュ大学、エストニア教育・研究省、スウェーデン研究評議会の他、EUの「ホライゾン2020」よる補助金を受けており、本研究の全ゲノム関連解析(GWAS)に関する要約統計は一般公開されている。また、個人レベルのデータについては、エストニアバイオバンクを通じてのみアクセス可能となっている。
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