ここまでエストニアのバイオバンクを巡る動向を取り上げてきたが、以下では、同時並行で進む、欧州域内レベルの動きを紹介する。
2018年4月10日、欧州委員会は、2022年までにEU域内で少なくとも100万人のシーケンスゲノムにアクセス可能にするという、EU加盟国による2018年宣言を発表し、その実現をめざす組織として、1+MGイニシアチブを創設していた(関連情報)。
1+MGイニシアチブは、欧州委員会が2018年4月25日に公表した「医療のデジタルトランスフォーメーションのためのEUアジェンダ」(関連情報)の一部を構成するものであり、本連載第83回で触れた欧州保健データスペース(EHDS)の目的と足並みをそろえている点が特徴だ。
そして、1+MGイニシアチブは、欧州全体に渡ってゲノムおよび対応する臨床データへのセキュアなアクセスを実現し、画期的な研究や保健医療政策の策定を支援するとともに、疾病予防を改善する潜在力を持った、個別化された医療処置を動機づけることを目的としている。具体的には、以下のような役割を果たすとしている。
さらに図2は、1+MGイニシアチブのロードマップの全体像を示している(関連情報)。
このロードマップは、「ガバナンス」「トラストフレームワーク」「インフラストラクチャ」「データ」の4つを軸に、「設計&検証フェーズ」(2018年〜2022年)と「スケールアップ&持続可能性フェーズ」(2023年〜2027年)から構成される。
最初の設計&検証フェーズでは、「ホライズン2020」の「B1MG(Beyond 1 Million Genomes)」(関連情報)プロジェクトが、ロードマップ実装のオペレーションレベルにおける支援と調整の役割を果たしている。これにより、データアクセスを可能にするようなインフラストラクチャの設定、法的/技術的ガイダンス、データ標準規格、要求事項、そしてベストプラクティスに関する合意形成が促進された。加えて、B1MGは、持続可能性があるデータ共有インフラストラクチャの構築にも焦点を拡大している。このインフラストラクチャを通じて、疾病に対する科学者の理解を強化し、臨床医による個別化医療を支援して、患者に便益をもたらし、医療システムの効率性を改善して、欧州経済に寄与してきた。
なお、欧州全体に渡るゲノムデータや保健データへのセキュアなアクセスを保証するための推奨事項、ガイドライン、EUのベストプラクティスなど、第1フェーズの成果物は、B1MGの1+MGフレームワークWebサイトで公開している(関連情報)。
次のスケールアップ&持続可能性フェーズに関連して、2023年11月14日、1+MGの改訂版2023年〜2027年ロードマップが採択された(関連情報)。
改訂版ロードマップは、プレシジョンメディシン(PM)の実現に向けて、市民の情報や権利を保護しつつ、研究者やイノベーター、政策立案者が、欧州全体に渡って高品質のゲノム/保健医療データにアクセスできるようにすることを目的としている。加えて、豊富なユースケースを通じて、ニーズ駆動型の開発、継続的検証、最適化をサポートするとともに、研究/イノベーションプロジェクトなど、協働的な検証ケースに貢献するとしている。
図3は、1+MGイニシアチブの改訂版ロードマップの全体像を示している。
改訂版ロードマップは、個別化医療の実現に向けて、以下の5つの柱から構成されている。
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