タルテュ大学は、2018年1月1日、ゲノムベースの研究、教育およびその他の科学領域におけるシナジー拡大の促進を目的として、エストニアゲノムセンターとエストニアバイオセンターを統合したエストニアゲノミクス研究所を新設した。現在、同研究所は、以下のような部門から構成される。
資金調達面からみると、エストニアバイオバンクは、社会事業省の国家予算を主財源として運営されている。バイオバンクが、組織検体を収集し、健康状態の記述や家系図を編集し、仮名化や非仮名化を行って、遺伝子研究を実施する場合、バイオバンク内およびその他のソースから提供されるデータソースの容量に応じて、国家予算から支出される仕組みになっている。
本連載第96回で触れたように、エストニアでは、一般データ保護規則(GDPR)やネットワーク・情報システムの安全に関する指令(NIS指令)の順守を前提として、国民共通のデジタルIDシステムや、オープンソースベースの電子政府向けデータ連携基盤「X-Road」が広く利用されてきた。このようなICTプラットフォームの経験/ノウハウをベースに、タルテュ大学では、エストニアゲノムセンターを中心に、「GRANVIL」「GWAMA」「MIXFIT」「MR-MEGA」「RegScan」「SCOPA」「STEROID」「Cropper」「Manhattan Harvester」などさまざまな支援ツールを開発/提供している(関連情報)。
プロセスの観点からエストニアバイオバンクを見ると、ドナーが、「ヒト遺伝子研究法(HGRA)」(2001年1月8日施行、関連情報)に準拠した包括的なコンセントフォーム(関連情報、PDF)に署名すれば、エストニアバイオ倫理・ヒト研究委員会が承認した研究向けに、研究者が保健医療/ゲノムデータを利用することができる仕組みになっている。全ての被験者は、募集イベント、メディア、知人などを通じた告知や、その他の理由で一般医(GP)の診療所や病院で受診した後に、無作為でバイオバンクにリクルートされた個人である。タルテュ大学によると、HGRAにより、バイオバンクの参加者との再契約やインタビューが可能となり、データや試料にアクセスするためのルールが、明確で透明性の高いものになるという。
エストニアバイオバンクでは、被験者のリクルートに際し、以下のような質問票を提示してデータを収集している。
エストニアバイオバンクのデータベースは、全国レジストリ(がんレジストリ、死因レジストリなど)、病院データベース、レセプト処理を取扱う全国健康保険基金のデータベースと、定期的に連携している。データ連携の際には、相互運用性を考慮して、ICD-10(国際疾病分類第10版)コード、ATC(解剖治療化学分類法)分類、OMOP(観察医療アウトカムパートナーシップ)マッピングなどの標準規格を採用している。
加えて、前述の通り、海外民間セクターとの連携については、エストニアバイオバンク・イノベーションセンターが窓口となっている。タルトゥ大学は、2022年11月17日に発足したEU主導の欧州ゲノムデータインフラストラクチャ(GDI)に当初から参画しており(関連情報)、2023年1月6日には、タルトゥ大学およびタルトゥ大学病院を中心とするコンソーシアムが、エストニア政府および欧州委員会の支援金を受けて、国際個別化医療研究開発センター・オブ・エクセレンスを設立することを発表している(関連情報)。
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