本連載では、「デジタルツイン×産業メタバースの衝撃」をタイトルとして、拙著の内容に触れながら、デジタルツインとの融合で実装が進む、産業分野におけるメタバースの構造変化を解説していく。
本連載では、「デジタルツインとの融合で実装が進む産業メタバース」をタイトルに連載として、拙著『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインがビジネスを変える〜』(日経BP)の内容にも触れながら、本連載向けに新たに追加する内容を含めて、産業分野におけるデジタルツインとの融合により実装が進む産業分野におけるメタバースの構造変化について解説していく。
現在、都市の在り方がデジタル化の中で大きく変化し、スーパーシティ/スマートシティーとして進化している。
都市におけるメタ産業革命においては、建物のみならず、道路などのインフラや車両、交通、エネルギー、人流といった広い範囲のシミュレーションや分析が求められる。多様な目的を持つステークホルダーが織りなす複雑な都市課題を解決するには、デジタルツインを通じて可視化し、複数の要素を調整しながら都市づくりや都市マネジメントを実施する必要があるのだ。このため、さまざまなデータを組み合わせたCPS(サイバーフィジカルシステム)が生成されている。
日本のスマートシティの展開は、他国と比較して遅れているといわれていた。しかし昨今、国と自治体が連携して、スピード感のある積極的な取り組みがなされるようになった。政府は「住民が参画し、住民目線で、2030年ごろに実現される未来社会」を目指すスーパーシティ構想を掲げており、2022年3月には大阪府大阪市と茨城県つくば市がスーパーシティ特区に、吉備中央町(岡山県)、茅野市(長野県)、加賀市(石川県)がデジタル田園健康特区に認定された。
各地域の特徴や課題に応じたスーパーシティが提案されており、大阪市では日本発の「空飛ぶクルマ」の実装など大阪・関西万博を見据えた取り組みが、つくば市ではデジタルツインやロボットなどの先端技術を社会実装する「つくばスーパーサイエンスシティ」の取り組みがそれぞれ進行している。
デジタル田園健康特区は、デジタル技術活用により健康/医療の課題解決に取り組む自治体を指定するものだ。2021年に岸田政権が提唱した「デジタル田園都市構想」に基づいて推進している。同構想は「デジタル実装を通じて地方が抱える課題を解決し、誰一人取り残されずすべての人がデジタル化のメリットを享受できる心豊かな暮らしを実現する」ことを目指している。
今の都市は、人口減少に伴う課題やCO2排出量削減などの環境問題への対応に直面している。この他、高齢者などのいわゆる「交通弱者」や都市生活者の医療/健康、防災など、社会的課題が山積している。これらの課題を解決するとともに、生活の付加価値をあげてウェルビーイングを向上させることが現代の都市づくりには求められている。
これら複雑な課題を多様なステークホルダーとの合意形成のもと解決し、都市づくりに生かしていく上で、可視化やシミュレーション、最適化を行うためにもデジタルツインの活用は必要不可欠だ。中国やシンガポールなど、政府がイニシアチブを握って、半ば強制力を持ってトップダウンで都市づくりを進められる国/地域と異なり、日本では住民と合意形成しながらスマートシティを展開することが重要になる。デジタルツイン活用は、住民や多様なステークホルダーと合意形成を図るツールとしても今後鍵になるだろう。
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