「ロッキング」と「アワーグラスモード」の説明に紙面を使うつもりはありません。いずれ四面体要素、六面体要素ともに2次要素を使うべきだと述べますが、2次要素を使うとロッキング問題とアワーグラスモード問題とは無縁となるからです。しかし、年に1度くらいはアワーグラスモードが出ます。四面体2次要素だと四面体がコンペイトーのような形となった計算結果が出力されますが、その部分の要素サイズを少し細かくすると解決できます。
ここでは、「低減積分要素」と「完全積分要素」を説明します。
式39において、被積分関数はξ、ηの何次式かというと、ほぼ2次式になります。ということは、ガウスの数値積分公式での計算点数が2×2で厳密な積分ができそうで、このようにして要素剛性マトリクスを求めた要素を完全積分要素と呼び、計算点数を1×1としたものを低減積分要素といいます。完全積分要素を使うか、低減積分要素を使うかでロッキングとアワーグラスモードの出方が異なりますが、これは四面体1次要素、六面体1次要素を使った場合にほぼ限ります。
完全積分要素について調べた結果を述べます。式41には[J]-1があります。[J]-1を次式で示しますが分数になっています。ということは、変位−ひずみマトリクスはξ、ηの2次式ではなく、分子がξ、ηの2次式の分数となります。
式39の被積分関数はマトリクスですが、それを計算してみました。その1行1列は次式となりました。
bi、diは座標と材料定数から決まる定数です。式49の分子はξ、ηの2次式なので積分点数を2×2とする分子は厳密な積分ができますが、式49は分数なので積分点数を2×2としても厳密な積分値とならないはずです。完全積分要素というのは少し言い過ぎでしょうか。
繰り返しとなりますが有限要素法プログラムでは、式49を計算するのではなく、[B]、[D]、[J]、[J]-1、|J|を先に、個別に数値化して近似積分を行います。このときのξ、ηの値はガウスの数値積分公式のときの値を使います。通常使用されるのは2次要素で、有限要素法プログラムでは特に設定を変えなければ低減積分要素で計算されているようです。
筆者が学生のときは、試験前に下記の仮想変位の原理を丸暗記しました。
1つの質点が、これに働くいくつかの力の作用の下でつり合い状態にあるとき、この質点に微小な仮想変位を与えても、質点に働いている全ての力がこの仮想変位によってなす仕事の総和はゼロである。……(呪文A)
呪文のようなので「呪文A」と略記しましょう。仮想変位って何でしょうか。職場で後輩から「先輩、仮想変位の原理を実験的に確かめたいのですが、ひずみゲージはどこに貼ったらいいっすか?」と問われても筆者は答えられません。そして、「仮想変位によってなす仕事の総和はゼロである」の根拠は何でしょうか。変位があるから状態が少し変化して、仕事の総和はちょっとずれるのではないでしょうか。これから、この呪文の解釈を述べます。
弾性力学の力のつり合い式を持ってきます。力のつり合い式は他のところから何も持ってこなくても、自身の考察から導出できるので受け入れましょう。次式です。
X、Y、Zは物体に作用する単位体積当たりの力です。重力の場合、Z=−ρg/体積ですね。実は力のつり合い式を数学的に操作するだけで、仮想変位の原理を導けるのです(参考文献[4][5])。下図のような関係です。
仮想変位の原理の式の3次元版を再掲します。
第1項、第2項は外力がこの仮想変位によってなす仕事、上式の第3項は仮想変位によって蓄えられたエネルギーです。筆者は呪文Aを丸暗記するのではなく、以下のように解釈するようにしています。筆者がここまでたどり着くのに何十年かかったでしょう。
仮想仕事の原理の式は釣り合い式を数学的な操作で導くことができ、その式を日本語に翻訳したものが仮想仕事の原理である。
仮想仕事の原理は、力の釣り合い式の弱形式といわれています。 (次回へ続く)
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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