アルテア・エンジニアリングが2014年7月に開催した「2014 Japan Altairテクノロジーカンファレンス」で、住友精密工業 航空宇宙熱制御システム部 技術課の田谷亮氏が、航空機エンジンなどに使われる熱交換器に熱流体と構造の連成解析を適用した事例を紹介した。
強度解析をより高精度に行うためには、製品の温度変化や周辺の温度環境などの熱負荷を考慮することが必要だ。住友精密工業 航空宇宙熱制御システム部 技術課の田谷亮氏は、アルテア・エンジニアリングが2014年7月17、18日に開催した「2014 Japan Altairテクノロジーカンファレンス」で、航空機エンジンなどに使われる熱交換器に熱流体と構造の連成解析を適用した事例を紹介した。
住友精密工業は航空機の降着装置の設計、製造をはじめ、航空機向け熱交換器や関連技術を展開している。同社が製造する熱交換器は、航空機向けのエンジンや動力装置、空調装置などに使われている。例えばボーイング787では、メインおよび補助エンジンに同社の熱交換器が採用されているという。
熱交換器は、図1のように装置内に異なる温度の流体を通過させ、それぞれの通路を近接させて熱を交換する仕組みだ。扱う流体は水や油、燃料、空気などである。設計の手順は、まず要求仕様を満たす性能をCFDや伝熱理論に基づいて計算する。それを基にコアサイズやフィンの種類などを選定していく。熱交換器を設置する場所に空間的な制限がある場合は、ヘッダーやバルブといった周辺機器の形状の検討も行う。続いて決定した形状の強度を解析で確認していく。静荷重および動荷重によるFEM解析を行い、圧力条件や振動条件を確認して、場合によっては材料や形状を再検討する。基本的な設計が終わると実際に製品を作り、熱交換性能や圧力損失試験、振動試験や内部流体の保証圧力、耐圧試験、圧力サイクル試験などを行う。要求性能を満たしているかの試験に加えて、限界値を確認するために流体が漏えいして破壊に至るまでの試験も行い、強度余裕を確認する。
このようにして破壊された製品を確認すると、2つの問題が確認されたという。それは解析で応力の発生する箇所と実際の破断位置の不一致と、試験で要求を満たした製品が実機上では設計寿命よりも早く壊れるということだ。
そこで原因を特定するため、熱交換器にかかる負荷を洗い出すと、熱荷重が問題だと考えられた。装置にかかる荷重要素には機械、流体、熱の3つが挙げられる。そのうち機械荷重と流体荷重については、解析や試験によって確認できるプロセスを確立していた。だが熱荷重は、機械荷重や流体荷重と複合的に絡んでくる。それを精度よく解析に盛り込めていないと考えられた。
一方、熱交換器が故障する原因は、外乱と疲労の2つが考えられるという。外乱は熱交換器が実機上で使用されている場合に外部から異物が衝突するといった場合で、これは現状では設計に盛り込む手法はない。一方、疲労の原因は、機械的振動や内部流体の脈動、温度環境の変化などが挙げられる。機械的振動および内部流体の脈動については、解析や試験で確認することができるが、温度環境の変化、つまり熱荷重については解析モデルへの適用が未確立だった。
実際に、実機上でさらされる温度の幅は−50度から200度と幅広いが、強度解析では製品の各流路の入り口における温度が部品全体に一様に適用されていたという。これでは熱荷重を正確に見積もることができない。そのため熱交換時の温度分布を加味した強度解析を行うことにしたという。
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