ここまで3つの事例をご紹介してきました。ただ、一口にスキルデータを使う、といっても、実際には使用目的に応じた粒度の設定や、運用環境の整備など取り組まなければならない課題は数多く存在しています。
最後に、「シン・3つの注意点」と銘打って、スキルデータ活用において気を付けたい点をご紹介します。
製造業企業において、全社レベルでスキルデータを活用する場合、大前提として人事部と事業部はスキルデータの活用目的が異なる点を把握しておく必要があります。人事部と事業部とでは活用目的が異なるため、そもそもスキル項目に求める粒度感も異なります。
通常、人事部は、以下のような考え方でスキルデータの活用を考えます。
一方、事業部や拠点では、以下のようなスキルデータの活用を考えます。これらの要件を実現しようとすると、スキル項目の粒度は人事部と比較してより細かくなる傾向があります。
全社レベルでスキルマネジメントを設計/運用するにあたり、スキル項目の粒度ギャップはスキルの統合データベースを構築する上での障壁にもなります。このような障壁を作らないためにも、全社共通で運用するスキルマスター(グローバル)と事業部固有、拠点固有で運用するスキルマスター(ローカル)を区別し、それぞれ設計/運用していく必要があります。
スキルデータを継続的に活用するためには、スキル自体のデータベース化と従業員自身がスキルを登録/評価するシステムが欠かせません。要するに、継続的なスキル登録/評価を効率的に運用できる仕組みを用意する必要があるのです。
資格であればその認定基準は明確でしょう。しかし、スキルは資格と異なり、認定/評価基準が曖昧です。その意味で、評価結果の属人性を完全に排除することはできません。しかも、膨大なスキル項目を1つ1つ、人間系で評価するのは骨が折れることも事実です。スキルの評価者である管理者は概して多忙なうえ、スキル登録/評価自体はメインの実務でもありません。
効率的なスキル評価を実現するために、以下のような仕組みを用意することが必要です。
スキルマネジメントの運用設計者は、データ活用の前提となるデータベースづくりと、従業員による登録/評価の効率化に取り組む必要があります。
事業戦略の実行に必要な人材要件は、事業戦略の変化によって変わります。言い換えると、必要なスキル要件も変わる、ということです。環境変化や事業計画の方針変更をもとに、自社で運用するスキルも見直ししていく必要があります。その意味で、スキル自体の改廃を司る組織体制の構築は必須です。
このとき、「人材を司る部門は人事部だから、スキルの改廃判断はすべて人事部が担うべき」という考え方をとることは正しくありません。人事部は事業や製品固有のスキル要件を熟知していないことがほとんどで、スキルの設計や運用を担当することは、実のところ難しいからです。事業や製品特性を考慮したテクニカルスキルは、モノづくり人材の育成を担う本部組織(技術本部や製造本部など)が担う方が現実的で、運用しやすいと言えます。スキルの鮮度を維持し、陳腐化を防ぐために、継続的な運用体制を構築していきましょう。
「ゼロから学ぶ! 製造業のスキルマネジメント」と題して、ISO9001を中心とした従来の力量管理から、製造業における人材育成/人員配置や組織力強化を目指した「スキルマネジメント」に取り組むためのヒントや事例について、全3回にわたり解説してきました。
変化の激しい外部環境の中で競争力を高めるためには、場当たり的な人材育成ではなく組織全体として従業員のスキル状況を把握し、戦略的に人材育成を実施する必要があります。従業員のキャリア形成を踏まえた、個人に最適化した育成計画も必要です。これらを実現するためには、スキルデータの活用によるスキルマネジメントの実践が有効な手段です。
今後もスキルノートとしては、スキルマネジメントを通して、日本のモノづくり力の向上に貢献していきたいと考えています。
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