「スキルデータ」の活用が製造業にもたらすメリットとは 実践事例と注意点を解説ゼロから学ぶ! 製造業のスキルマネジメント(3)(4/4 ページ)

» 2024年04月18日 10時00分 公開
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スキルデータ活用のシン・3つの注意点

 ここまで3つの事例をご紹介してきました。ただ、一口にスキルデータを使う、といっても、実際には使用目的に応じた粒度の設定や、運用環境の整備など取り組まなければならない課題は数多く存在しています。

 最後に、「シン・3つの注意点」と銘打って、スキルデータ活用において気を付けたい点をご紹介します。

(1)人事部と事業部で活用したいスキル粒度のギャップ解消

 製造業企業において、全社レベルでスキルデータを活用する場合、大前提として人事部と事業部はスキルデータの活用目的が異なる点を把握しておく必要があります。人事部と事業部とでは活用目的が異なるため、そもそもスキル項目に求める粒度感も異なります。

 通常、人事部は、以下のような考え方でスキルデータの活用を考えます。

  1. 全社/部門横断的なスキルポートフォリオ分析
  2. 人的資本観点の傾向把握と人材育成の方向性決め
  3. 全社/部門横断的な人材検索
  4. 人事異動やサクセッションプランの対象者(タレントプール)決め
  5. 職務記述書(Job Description)へのスキル明示
  6. ジョブ型人事制度への移行に伴う、職務/能力要件の明確化
  7. 社内公募や中途採用における候補者へのスキル要件明確化
  8. 職務要件にもとづく、スキルギャップ可視化
  9. 従業員の自律的なキャリア開発/能力開発のガイド
  10. 現在の職務/将来の職務で必要なスキル要件の本人理解

 一方、事業部や拠点では、以下のようなスキルデータの活用を考えます。これらの要件を実現しようとすると、スキル項目の粒度は人事部と比較してより細かくなる傾向があります。

  1. 人事が望むスキル項目の粒度
  2. 粗い粒度
  3. 事業/製品固有の項目は排除し、最大公約数的に項目設計
  4. 傾向が分かればよい、という考え方
  5. 事業部が望むスキル項目の粒度
  6. 細かい粒度
  7. 事業/製品や拠点の要求事項を踏まえた項目設計
  8. 事業部内/拠点内の人材育成や配置に寄与できるよう、具体性を持たせたほうがよい、という考え方

 全社レベルでスキルマネジメントを設計/運用するにあたり、スキル項目の粒度ギャップはスキルの統合データベースを構築する上での障壁にもなります。このような障壁を作らないためにも、全社共通で運用するスキルマスター(グローバル)と事業部固有、拠点固有で運用するスキルマスター(ローカル)を区別し、それぞれ設計/運用していく必要があります。

(2)スキル登録/評価の省力化、自動化

 スキルデータを継続的に活用するためには、スキル自体のデータベース化と従業員自身がスキルを登録/評価するシステムが欠かせません。要するに、継続的なスキル登録/評価を効率的に運用できる仕組みを用意する必要があるのです。

 資格であればその認定基準は明確でしょう。しかし、スキルは資格と異なり、認定/評価基準が曖昧です。その意味で、評価結果の属人性を完全に排除することはできません。しかも、膨大なスキル項目を1つ1つ、人間系で評価するのは骨が折れることも事実です。スキルの評価者である管理者は概して多忙なうえ、スキル登録/評価自体はメインの実務でもありません。

 効率的なスキル評価を実現するために、以下のような仕組みを用意することが必要です。

  1. スキル評価の基準
  2. スキル開発の条件設計
  3. 基礎的な知識/スキルの習得は、所定の教育/訓練や研修受講をもって認定とし、評価者による入力を不要とする
  4. 応用的なスキルの習得は、所定の経験をもって認定とする。従業員は業務経験のみ一定の頻度で入力し、評価者の承認をもってスキル付与する
  5. 社内外から認知されるエキスパートレベルは、機械的なスキル認定が難しいため、複数評価者の承認をもってスキル付与する(対象者が少ないため、負荷は小さい)
  6. 保有スキルの引き継ぎ
  7. 人事異動、組織変更があっても本人の保有スキルが滅失せず、引き継ぎされる状態をつくる
  8. 二重入力の抑止
  9. 事業部で設計/運用/蓄積した保有スキルを集約し、人事部が求めるスキル項目の粒度に変換、利用する仕組みをつくる

 スキルマネジメントの運用設計者は、データ活用の前提となるデータベースづくりと、従業員による登録/評価の効率化に取り組む必要があります。

(3)スキルの鮮度管理

 事業戦略の実行に必要な人材要件は、事業戦略の変化によって変わります。言い換えると、必要なスキル要件も変わる、ということです。環境変化や事業計画の方針変更をもとに、自社で運用するスキルも見直ししていく必要があります。その意味で、スキル自体の改廃を司る組織体制の構築は必須です。

 このとき、「人材を司る部門は人事部だから、スキルの改廃判断はすべて人事部が担うべき」という考え方をとることは正しくありません。人事部は事業や製品固有のスキル要件を熟知していないことがほとんどで、スキルの設計や運用を担当することは、実のところ難しいからです。事業や製品特性を考慮したテクニカルスキルは、モノづくり人材の育成を担う本部組織(技術本部や製造本部など)が担う方が現実的で、運用しやすいと言えます。スキルの鮮度を維持し、陳腐化を防ぐために、継続的な運用体制を構築していきましょう。

まとめ

 「ゼロから学ぶ! 製造業のスキルマネジメント」と題して、ISO9001を中心とした従来の力量管理から、製造業における人材育成/人員配置や組織力強化を目指した「スキルマネジメント」に取り組むためのヒントや事例について、全3回にわたり解説してきました。

 変化の激しい外部環境の中で競争力を高めるためには、場当たり的な人材育成ではなく組織全体として従業員のスキル状況を把握し、戦略的に人材育成を実施する必要があります。従業員のキャリア形成を踏まえた、個人に最適化した育成計画も必要です。これらを実現するためには、スキルデータの活用によるスキルマネジメントの実践が有効な手段です。

 今後もスキルノートとしては、スキルマネジメントを通して、日本のモノづくり力の向上に貢献していきたいと考えています。

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筆者紹介

髙橋悠(Yu Takahashi)

三井金属鉱業株式会社を経て、コンサルティング会社を中心にキャリアを築きながら製造業の領域に携わり、株式会社Skillnoteに参画。製造業/建設業の企業様を中心として、スキルマネジメント制度設計のコンサルティングやスキルマネジメントシステム「Skillnote」の導入を支援。


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