さらに、本連載第100回では、北欧諸国の医療SXを取り上げたが、フィンランド政府は、2022年4月1日、経済・雇用省、農林省、環境省、教育・文化省、社会福祉・保健省、運輸・通信省、財務省、内閣府が連携して策定した「2022〜2035年バイオエコノミー戦略:高付加価値に向けた持続可能性」を公表している(関連情報)。
この戦略は、2012年2月13日に欧州委員会が採択した「持続可能な成長のための革新:欧州のためのバイオエコノミー」(関連情報)に呼応して、フィンランド政府が2014年5月に採択した「2014〜2025年フィンランド・バイオエコノミー戦略:バイオエコノミーからの持続可能な成長」(関連情報、PDF)の改定版であり、以下のような構成になっている。
改定版戦略では、バイオエコノミーについて以下のように定義している。
フィンランドにおいて、バイオエコノミーは、食物、エネルギー、製品、サービスを生産するために、再生可能な、資源に配慮した方法に依存する経済である。
フィンランドにおいて、最も重要な、再生可能で生物学的な資源は、バイオマス(例:森林、土壌、畑、水システム、海、淡水における有機物質)である。これらは、原材料や派生物として利用される。
エコシステムサービスは、バイオエコノミーの一部である。
またバイオエコノミーには、持続可能性のある利用に基づいて、技術やアプリケーション、サービスの開発/生産が含まれる。
そして、2035年に向けたバイオエコノミー戦略のビジョンとして、「高付加価値に向けた持続可能性」を提示した上で、以下のような目標を掲げている。
フィンランドの改定版バイオエコノミー戦略では、デジタル化の観点から、「3.対策」の「3.2 強力なコンピテンスと技術ベース」の中で、デジタル技術の最適利用を挙げている。例えば、医療/社会福祉分野の場合、再生可能エネルギーの有効利用に加えて、既存業務プロセスの継続的な改善による効率化の推進が、デジタル化のメリットを生かせる鍵となる。
フィンランドで事業を展開する医療機器企業の中では、フィリップスが、2023年6月20日、ハイネケン、ノビアン、シグニファイと共同で企業コンソーシアムを結成し、風力発電による仮想電力購入契約(V-PPA)を締結したことを発表している(関連情報)。この契約を通じて調達された電力は、フィンランド国内のグリッドに送電されるという。またフィリップスは、フィンランドのタンペレ・ハート・ホスピタルとの間で、同院の臨床業務におけるCO2排出量削減のために、包括的な分析を完了したことを発表している(関連情報)。EUでは、2023年1月5日に企業サステナビリティ報告指令(CSRD)が施行されており、このような企業の取組が拡大することが見込まれる(関連情報)。
なお、フィンランド政府は、バイオエコノミーの付加価値を拡大させる対策として、バイオエコノミーのグリーントランジション向け研究/開発/イノベーション(R&D&I)プログラムの実装や、革新的な実証実験・デモンストレーション施設およびフィンランドにおける最初の産業規模の工場の設置の促進を挙げている。欧州市場展開を図る医療機器企業にとっても、バイオエコノミー関連技術はますます重要になるだろう。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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