本連載第32回、第45回、第51回、第57回で取り上げた北欧諸国のデータ駆動型デジタルヘルス施策が、多国間連携に向けて進化している。
本連載第32回、第45回、第51回、第57回で取り上げた北欧諸国のデータ駆動型デジタルヘルス施策が、多国間連携に向けて進化している。
言うまでもなく、2030年は「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標年だ。2019年8月20日、北欧閣僚理事会は、2030年までに北欧地域を世界で最も持続可能な統合された地域となることを目標とする「2030年ビジョン」(関連情報)を採択した。このビジョンを達成するために、以下の3項目について、戦略的な優先順位付けを行っている。
2030年ビジョンは、以下のような構成になっている。
このような動きと並行して保健医療分野では、北欧閣僚会議傘下のノルディックイノベーション(関連情報)による「健康、人口学、生活の質」プログラム(実施期間:2018年〜2022年、関連情報)の一環として、コペンハーゲン未来学研究所が調整役を担う「ノルディックヘルス2030ムーブメント」(関連情報)が展開されてきた。ノルディックヘルス2030では、以下の3つの原則を掲げている。
図1は、その報告書である「ノルディックヘルス2030:予防保健に向けて」(関連情報)の中で提示された、持続可能性のある保健医療モデルである。
図1左部の「個人」の周りには「自己意識」「時間意識」「目的意識」「帰属意識」「リテラシー意識」「インパクト意識」があり、新たな個人との社会的契約が必要だとしている。図1中心部の「データ」の周りには、「データソース」「データセット」「データアイデンティティー」「データ利他主義」「データ標準規格」「データアウトカム」があり、新たなデータ共有の手法が必要だとしている。図1右部の「システム」の周りには、「システムのシナジー」「システムの拡張性」「システムの倫理」「システムの提携」「システムの柔軟性」「システムの価値」があり、予防ケアにも報いるような新たなビジネスモデルが必要だとしている。そして、「個人」と「システム」の間のデータ共有が鍵だとしている。
本連載第70回で紹介したように、欧州全域レベルでは、フィンランド・イノベーション基金(SITRA)が調整役となり、2021年2月1日にスタートした「欧州保健データスペース(EHDS)に向けた共同行動(TEHDaS)」プロジェクト(関連情報)や、欧州委員会が2020年11月11日に提唱した「欧州保健データスペース(EHDS)」構想(関連情報)が進行している。北欧全域レベルでは、前述の2030年ビジョンの実現に向けて、国境を越えた保健データ利活用やデジタルヘルス相互運用性の標準化に向けた動きが進んでいる。
例えば、ノルディックイノベーションの「健康、人口学、生活の質」プログラムでは、2020年6月16日、「北欧のデータの橋渡し」と題する報告書を公表している(関連情報)。
この報告書では、最初に欧州連合(EU)および欧州経済領域(EEA)域内に適用される一般データ保護規則(GDPR)の法的基盤について概説している。その中で図2は、保健医療データ処理のための法的基盤を示したものである。
具体的には、以下の6項目が柱となっている。
このような基礎情報を踏まえた上で、デンマーク(EU加盟国)、フェロー諸島(デンマーク自治領)、グリーンランド(デンマーク自治領)、フィンランド(EU加盟国)、オーランド諸島(フィンランド自治領)、アイスランド(EEA加盟国)、ノルウェー(EEA加盟国)、スウェーデン(EU加盟国)の5カ国3地域について、保健データ利活用の法的仕組みの比較分析を行っている。
参考までに、図3はデンマークにおける規制と保健データの1次利用/2次利用との関係を示したものである。
デンマークの場合、1次利用については、本来の医療目的(例:治療)のための患者向けサービスでアクセス可能となっている一方、2次利用については、研究、統計、計画策定、品質構築・品質保証といった目的でアクセス可能である。ただし、イノベーション・開発を目的として民間企業やイノベーターがアクセスできるような仕組みは未整備である。
他方、図4はフィンランドにおける規制と保健データの1次利用/2次利用との関係を示したものである。
フィンランドの場合、1次利用については、本来の医療目的(例:治療)のための患者向けサービスおよび社会的介護目的(例:福祉、生活保護)のための利用者向けサービスでアクセス可能となっている一方、2次利用については、研究、教育、統計、ナレッジマネジメント、当局のガイダンス、法執行、計画策定、報告の義務といった目的に加え、イノベーション/開発目的でもアクセス可能な点が特徴だ。参考までに図5は、フィンランドにおける2次利用目的の保健・社会関連データの取得プロセスを示している。
このように、同じGDPRが適用される北欧域内であっても、国/地域単位で見ると、データ利活用に関わる法規制は一様ではない。国境を越えた共通の法的仕組みづくりに必要なプロセスやユースケースを蓄積、共有しているのは、北欧諸国の強みだ。
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