前節でご紹介した為替レートによるドル換算値は、為替の変動によってアップダウンが激しく、生産性の高低が比較しにくいですね。為替レート換算は、国際的に見た金額的な価値を表していて、時価のような側面があります。
もう少し実感値に近い生産性の比較ができる指標として、購買力平価によるドル換算値の比較が推奨されているようです。
購買力平価(PPP:Purchasing Power Parities)とは、両国間の実際のモノやサービスの値段から計算される通貨の換算比率を表します。あるグローバルなチェーン店のハンバーガーが、日本では200円、アメリカでは1ドルで買えるとすると、1ドル当たり200円の換算比率に相当します。
この例えのスケールを拡大して、GDPを構成するモノやサービスのバスケットのようなものがあると想定してください。それぞれのモノやサービスの換算比率をバスケットの構成に沿って総合したものが、GDPベースの購買力平価となります。
購買力平価でドル換算すると、各国の物価の水準をそろえた上で、数量的な経済規模を共通通貨であるドルで表現できることになります。購買力平価は通貨をドルに換算する通貨コンバーターであると同時に、数量的(=実質的な数値)に変換する空間的価格デフレータであるとも言われています。
では、この購買力平価で換算した上での労働生産性を見てみましょう。
図4が労働時間当たりGDPの購買力平価換算による推移です。この指標では日本(青)は、1970年代から主要先進国の中でもかなり低い水準が続いていたことになります。そして2000年頃にはOECDの平均値を下回り、他の主要先進国との差も大きく開いていますね。
為替レート換算値と違い、右肩上がりの推移にはなっていますが、他の主要先進国と比べると随分と低いように見受けられます。
図5が労働時間当たりGDPの購買力平価換算値について、最新の2022年の比較となります。購買力平価による換算だと日本(青)は先進国でもかなり低い順位となることが分かりますね。
為替レート換算では日本よりも下位であった東欧諸国に軒並み抜かれています。ドイツ、米国、フランスが80ドル以上であるのに対して日本は約52ドルで、6割程度の水準となっていますね。労働時間当たりの数値で見ているので、パートタイム労働者を含めたことによる短時間労働の影響なども関係ありません。
日本は生産性が低いと指摘されるのは、どうやらこういった統計データが根拠となっているようです。自分たちの仕事がどれだけの価値を生み出しているのかは、働く皆さんの関心度合も大きいと思います。
時間当たりで見ると生産性は向上していますが、それでも他の先進国と比べるとかなり低い水準にあるというのは意外に感じた人も多いのではないでしょうか。仕事は「顧客の代行業として付加価値を稼ぐこと」と考えれば、その効率を上げるための取り組み方が見えてくるかもしれませんね。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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