ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。
今回は、日本の製造業の投資についてご紹介します。参照するのはOECDの投資(総資本形成)に関する統計データ(Capital formation by activity ISIC rev4)と、労働者数に関する統計データ(Population and employment by main activity)です。
ここでご紹介する投資は、株式投資や不動産投資のような非生産手段への投資ではなく、機械/設備や工場などの生産手段に対する投資です。これらの生産手段は生産資産(または固定資産)とも呼ばれ、生産資産への支出が総資本形成と呼ばれます。総資本形成は、消費や純輸出と共にGDP(国内総生産)を構成する項目でもあります。
企業は生産資産への投資を行い、生産能力を向上させて、事業を拡大/効率化していく存在でもあります。企業は市場競争の中で、このような投資を通じて合理化を進めていくわけですが、特に製造業はその傾向が強いものと思います。また、日本の企業は投資を増やさなくなったと指摘されますが、この話は生産性の停滞と関連付けて語られることが多くあります。
これまでの連載でもお伝えしてきたように、日本の製造業はかつてより産業規模が縮小しています。一方で投資についてはどうなのでしょうか? その実情について、今回は確認していきたいと思います。
⇒連載「小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ」のバックナンバー
総資本形成の内容は「総固定資本形成」と「在庫品の増加」に分かれます。総固定資本形成とは、固定資産への支出を意味します。
ここでの固定資産は、住宅、機械/設備、その他の建物/構築物、知的財産生産物などで構成されています。知的財産生産物はコンピュータソフトウェア、研究開発などの、モノとしての形はないけれども価値を生む生産物ですね。土地は非生産資産に区分されていてるため、土地の購入は総資本形成に含まれません。
一般的に在庫の増加は微小で、総資本形成の大多数は総固定資本形成が占めます。では早速、日本の製造業の総資本形成がどのような状況なのかを見てみましょう。
図1は日本の製造業の総固定資本形成(青)と、その数値を労働者数で割った労働者1人当たり総固定資本形成(赤)です。
総固定資本形成はバブル期に急激に増加して1991年には40兆円を突破していますが、その後減少してアップダウンを繰り返しながらも、長期的に見れば横ばい傾向が続いていますね。現在の固定資産への投資が、バブル期のピークを越えていないことが良く分かります。
一方で製造業の労働者数は減少しています。そのため、労働者1人当たりの総固定資本形成はやや増加傾向にあります。労働者1人当たり活用できる生産手段が少しずつ増大しているということはいえそうですね。
前回、日本の労働生産性についてご紹介しましたが、産業全体で見ると生産性が停滞する中、製造業の生産性は少しずつ上昇している傾向が見て取れました。製造業全体として見ると投資は横ばいだけれども、労働者1人当たりで見れば少しずつ増えていて、これが生産性の向上につながっているということになるかもしれませんね。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.