手先のラストワンインチを埋める、器用さをもたらすロボットハンド協働ロボット

Thinkerは量産を見据えた開発フェーズとして開発中のロボットハンド「Think Hand F」のα版を「2023 国際ロボット展」に出展する。

» 2023年11月24日 08時00分 公開
[長沢正博MONOist]

 Thinkerは2023年11月20日、東京都内で記者会見を開き、量産を見据えた開発フェーズとして開発中のロボットハンド「Think Hand F」のα版について説明した。「2023 国際ロボット展」(2023年11月29日〜12月2日、東京ビッグサイト)で同開発品を参考出品する。

Think Hand Fによるばら積みピッキングのデモンストレーション[クリックで再生]

 Thinkerは同社 取締役で大阪大学大学院基礎工学研究科 助教の小山佳祐氏が開発した「近接覚センサー」を活用したソリューション提案を行う、2022年設立の企業だ。

 この近接覚センサーはカメラを使うことなく、赤外線とAI(人工知能)を組み合わせたセンシングにより、物の位置と形を非接触かつ高速に把握できることが特徴だ。センサー内に拡散反射式の赤外線センサーが4つ内蔵されており、対象物に対してそれぞれのセンサーから得られる赤外線の反射量の変化から、機械学習によって対象物の状態が非接触で分かるようになっている。

 ロボットのハンドに活用することで、カメラを使った従来のロボットシステムでは難しいとされていた鏡面や透明物なども取り扱いことができる他、カメラの死角になっているような箇所でも、ハンド側で自己補正して“まさぐる”動作などができるようになる。ティーチングの手間も大幅に削減でき、既に30社程にサンプルを提供しているという。

 開発中のThink Hand Fは、左右の指それぞれに近接覚センサーを1個ずつ下向きに搭載している。指の先端は対象物にならって柔軟に動くことができ、その先端部分の動きを近接覚センサーで捉えることで対象物の位置や形を認識し、ロボットコントローラーにフィードバックして把持や衝突回避を行う。

左からAI基板とセンサー基板 左からAI基板とセンサー基板[クリックで拡大]
Think Hand Fの内部構造 Think Hand Fの内部構造[クリックで拡大]

 会見のデモンストレーションでは、ネジのばら積みピッキングを披露した。従来なら3Dカメラなどで1つ1つのねじの位置や傾きを認識してハンドで把持したり、パーツフィーダ―などの専用機が専用機が用いられたりするが、Think Hand Fはばら積みされたネジを直接触り、まさぐることでカメラを使わずにピッキングができる。

 Thinker 取締役 CTOの中野基輝氏は「Think Hand Fは、3Dカメラのような高価な機材を使わずに、まさぐるという今までできなかった作業をロボットにさせることに成功した。人間がさまざまな対象物を整理整頓することなくつかむことができるため、ティーチングの工数を減らし、作業の確実さをサポートできる」と語る。

 指は、対象物とハンドの縦/横方向の位置のギャップを埋めるため、ばねを介して力を吸収するフローティング機構になっており、ばら積みされた対象物にハンドが接触した時の衝突検知による緊急停止を回避する。つかんでいたものを途中で落としてしまった時も、ハンド側で判断してすぐに取り直しに行くことができる。ばら積みされたワークが残りわずかになった場合は、2Dカメラなどでワークの場所さえ認識すれば、Think Hand Fが自らつかみに行くことができる。

「緊急停止を避けるためにセンサーを使ったり、ハンドを柔らかいシリコーン製にしたりする試みはされてきているが、われわれのように積極的にばら積みされた対象物にハンドを入れ、ゴソゴソとまさぐって取るところまでアプローチできたメーカーはないのではないか」(中野氏)

Think Hand Fを搭載した協働ロボット[クリックで拡大]

 2024年度中の量産体制の構築を目指している。同時にユーザーの現場における実証実験も進めていく。

 Thinker 代表取締役 CEOの藤本弘道氏は「ラストワンインチを埋めるセンサーであり、ロボットハンドとなる。既存の工場のFA設備だけでなく、協働ロボットのハンド部分として検討いただければ、これまでなかったような現場にも広がっていくのではと期待しており、裾野の拡大にもチャレンジしていきたい」と語る。

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