協働ロボットが人の隣で働くために行う、ISO/TS15066に基づくリスクアセスメント協働ロボットのリスクアセスメント解説(2)(1/3 ページ)

協働ロボットを用いたアプリケーションに関するガイドライン「ISO/TS15066」について紹介し、リスクアセスメントを実施する上での注意点を説明する。今回は後編としてISO/TS15066にあるサンプルケースを基により具体的にリスクアセスメントの進め方を紹介する。

» 2023年10月04日 08時00分 公開

 協働ロボットを安全柵を設けずに使うためには「リスクアセスメント」を行う必要があります。

 本稿では、協働ロボットの導入を検討中もしくは協働ロボットを導入したばかりという方に向けて、関連法令の中でも特に協働ロボットのアプリケーションに関連するガイドラインISO/TS15066などを基に、リスクアセスメントを実施する上での注意点を前編と後編の2回に分けて説明します。

 前回は、協働ロボットとはそもそもどんなロボットかを紹介し、リスクアセスメントの概要について触れました。今回は、ISO/TS15066にあるサンプルケースを基に、より具体的にリスクアセスメントの進め方を説明します。

頭部衝突リスクの低減

 ISO/TS15066にある下記のサンプルワークスペースは、協働ロボットを上から見た図となっており、オレンジ色が協働ロボット、青色が作業者です。ここからは、協働ロボットが赤や緑で示されたエリアを経由して、黒い●のワークを作業者の手元に運ぶ協働アプリケーションを想定してリスクアセスメントを考えてみましょう。

※1 TS B 0033:2017(ISO/TS15066:2016) 5.5.5.3 ロボットとオペレータ間の潜在的接触に対するリスク低減

 1の赤色は協働ロボットだけが動作するエリアで、2の緑色は人と協働ロボットが介在し、接触しうるエリアになります。

TS B 0033:2017(ISO/TS15066:2016)の協働作業空間 協働作業空間の例。1は運転空間、2は協働作業空間を表す[クリックで拡大]出所:TS B 0033:2017(ISO/TS15066:2016)図1 協働作業空間の例

 最初に気を付けるべきなのは、頭部への接触リスクです。協働ロボットが決められた動きを繰り返していればいいですが、別のスタッフが誤って100回に1回、協働ロボットの先端が人の頭の高さまで届くような動作をプログラミングしてしまい、作業者がそれに気付かずに作業をした場合、協働ロボットと接触する可能性はゼロではありません。頭部への接触はどのように防ぐことができるでしょうか。

 ISO/TS15066では「頭、額、喉、眼、耳または顔(頭部全体を含む)を含む敏感な身体領域への接触暴露は、合理的に実施できるときはいつでも防止されなければならない」※1 としています。つまり、可能な限り頭回りへの接触リスクは低減すべきであると書かれています。

 考えられる対策の1つは、例えば筆者が所属するユニバーサルロボット(UR)の協働ロボットであれば、安全機能の1つである「安全平面」を設定することです。ロボットのTCP(Tool Center Point)、つまりアーム部分が人の肩より上に到達しないように設定します。ロボットの動作エリアは球体を切ったように制限され、上部エリア(赤)への侵入を防ぐことができます。

 万が一、100回に1回、アームが高く上がる動作がプログラミングされていたとしても、、人の肩あたりで壁にぶつかるような形で協働ロボットの動作は止まります。

安全平面の設定 安全平面の設定[クリックで拡大]出所:ユニバーサルロボット

 「安全平面は信用できるのか」「協働ロボットが安全平面を突き破って暴走する可能性はないのか」という疑問を抱かれるかもしれませんが、そこはご安心ください。URの協働ロボットに関しては、安全平面は安全システムの1つの機能であり、第三者機関のTUV NORDに認定されています。安全のカテゴリーはPLd(パフォーマンスレベルd)、カテゴリー3のため、非常に高いレベルの安全性が担保されているといえます。

 「作業者がしゃがんだ場合、設定すべき平面の位置は変わるのでは」という質問も考えられます。実はその通りです。

 合理的な部分はシステムで防げるが、全ての状況を鑑みた対応は難しいので、「ここでしゃがまないでください」「ワークが落ちてもここでは拾わないでください」など、立て看板で警告したり、協働ロボットとの接触のリスクを考慮してヘルメットや保護メガネを装着して作業をしたりする、などの方策でカバーできます。

 あらゆる状況において協働ロボットが安全をカバーできるわけではない点は、ISO策定委員会も認識しており、必要に応じて保護具を使用するのが合理的な策だと考えられています。

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