本連載では、トヨタ自動車で16年間、生産技術/現場改善に携わった筆者が、食品工場で感じる「自動車工場では当たり前なのに、食品工場にはないこと」を軸に、現場の生産性などに悩む食品製造業の経営者に向けて“問い”を投げかけ、改善のヒントを探ります。今回の問いは「あなたの工場では今日、何個作ると決めましたか」。
連載の第1回で書いた通り、私は40歳でトヨタ自動車を飛び出した。食品や物流など、「モノが違ってもよく改善できるね」といわれるが、原則は変わらない。前職で教わったのは方法ではなく思想だ。それを試行錯誤しながら実現していくだけである。
トヨタ自動車の改善というと、ストップウォッチ片手に1秒を絞り出す「人」の改善をイメージされがちだ。しかし本来の出発点は「モノの改善」にある。豊田佐吉氏は糸が切れたら織機が止まる仕組みを作り、息子の喜一郎氏が「必要なものを、必要な時に、必要なだけ作る」というジャストインタイムの考えを壁に貼り出した。どちらも、モノをどう流すかという問いから始まっている。その思想が、私の現場での問いにつながっている。
食品工場に限らず、改善に入るとき私はまずこう聞く。「今日は何時間で、何個作るんですか?」。しかし、食品工場では、こんな答えが返ってくることが多い。
「できるだけです」
最初は聞き間違いかと思った。しかし複数の会社で、似たような答えが返ってきた。稼働時間の許す限り、より多くのものを作る。それがこの現場の管理になっている。
誤解しないでほしいのだが、これは食品工場全体の話ではない。お弁当のように、毎日決まった数を決まった時間に納める仕事では、自然と数を意識した管理になっている。また、大手スーパーから何万個という受注を受け、2〜3日かけて作り上げる工場では、「3日でこれだけ」という大きな目標はある。
もちろん、生産計画が全くないわけではない。「今週中に何個」「3日でこのロットを仕上げる」という目標は存在する。しかし現場レベルになると、「今日の8時間で何個作るか」という単位での管理が抜け落ちていることが多い。
背景には、食品工場特有の事情がある。その日集まったパートさんの人数で、できる限りこなす。人数が読めないからこそ、「いる人でやり切る」という発想が現場に根付いている。それ自体を否定するつもりはない。しかし、そこが私の感じた違和感の入り口だった。
自動車をはじめとする工場には、タクトタイムという考え方がある。
計算式はシンプルだ。稼働時間÷必要数=タクトタイム。注目してもらいたいのは、分母は生産できる数ではなく必要とされる数になっていること。必要な数をいかに少ない原価で作るか、というペースメーカになるタイムだ。
例えば480分の稼働時間で240個作るなら、タクトタイムは2分。つまり2分に1個完成させていけば、8時間後には過不足なく240個が出来上がる。
これは「できるだけ速く作る」ための指標ではない。「必要な数を、過不足なく作り切るためのペース」を決めるものだ。
日常でも同じ発想はある。夏休みの宿題が40日で80ページあるなら、1日2ページやればいい。そのために「毎朝30分確保しよう」と計画を立てる。ごく当たり前の考え方だ。タクトタイムとは、その発想を製造現場に持ち込んだものにすぎない。
タクトタイムが決まると、いくつかのことが自然に見えてくる。
まず、必要な人員が計算できる。タクトタイム2分の現場で、1人で完成させるのに2分かかるなら1人で十分ということになる。しかし、4分かかるなら2人必要だという具合に。次に、進捗が見える。1時間後に所定の数ができていれば順調、足りなければ遅れている。そして遅れているなら、なぜ遅れているのかを考えられる。
「なぜ遅れているのか」を考えられる環境。これが第1回で書いた「改善のトリガー」につながっていく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Factory Automationの記事ランキング
コーナーリンク