自動車工場で見えて、食品工場では見えないモノ〜今日何個作ると決めたか元トヨタ生技が見た食品工場のなぜ(2)(2/2 ページ)

» 2026年05月25日 06時00分 公開
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単位を決めると、目で見る管理ができる

 タクトタイムを決めるのと同時に考えてほしいのが、「何を単位にして管理するか」だ。個で数えるのか、箱単位なのか、トレー単位なのか。これを原単位と呼ぶ。

 ボールペンの組み立てを例に取ろう。1時間当たり60本作るとして、1本ずつ管理するより、12本1ダース×5箱と考えると、「12分に1ダース」というペースが見えてくる。

 ここからが重要だ。テーブルに12分刻みの線と5ダースの空ケースを並べておく。ボールペンを1ケース分組み立てたら、テーブル上の空きケースにボールペンを詰め、次の工程に流す。すると、ケースの減り方で進捗が確認できる。

 24分たって2ケースなくなっていれば順調。1ケースしかなくなっていなければ遅れている。数字を読む必要も、計算する必要もない。“見れば分かる”

“見ればわかる”作業管理の例 “見ればわかる”作業管理の例

 これは第1回で紹介したアンドン(行灯)と同じ思想だ。音で知らせる、光で知らせる、現物で知らせる。異常を「感じる」のではなく「見える」ようにする。現物を使った「目で見る管理」は、デジタルツールを導入しなくても今日から始められる。

 私は、前職時代からデジタルを活用してきた。しかし、今の仕事ではほとんど入れることがない。

 なぜならば、多くの現場で見せ方の研究が足りないからだ。例えば、健康のため医師に水を毎日1L(リットル)飲むように言われたとする。「水をたくさん飲もう」と頻繁にコップに水を注いで飲んでも、それだけでは摂取量が足りているのか逆に多過ぎるのか分からない。それを、1Lのボトルに満タンに水を入れて飲むようにすれば、あとどれくらい飲めばいいのか一目で分かるようになる。「数字は管理しているのに現場が動かない」というのは、見せ方が足りないからだともいえる。

 現物や手書きで始めることで、何をどう見せれば人が動くかが分かる。逆にそこを経ないと、デジタルツールを導入してもツールだけ残って何も現場に残らないことがある。

数を決めないと、何が起きるか

 「できるだけ作る」という発想には、一定の合理性がある。

 当日集まったパートさんに仕事を与えられる。人数が変わっても対応できる。作業を単純化、分業化することで、今日初めて来た人でも動ける。人手不足の時代に、それは確かな強みだ。

 しかし同時に、失われているものもある。

 まず、遅れているのか進んでいるのかが分からない。「できるだけ」が目標では、今の状態が良いのか悪いのか判断できない。問題が起きていても、それが習熟不足なのか、設備のトラブルなのか、見えてこない。

 次に、原価の計算ができない。ある製品を何人で作ればもうかるのか、今の人員配置は適正なのか、数字で語れない。例えば先のボールペンの例なら、5ダースの粗利と1時間の総時給を比較することができる。それがないと、「なんとなく忙しい」で一日が終わる。

 そして最も大きな損失は、改善が生まれにくいことだ。目標がなければ反省もない。反省がなければ、明日は今日と同じになる。

 マラソンなのか100m走なのか分からない状態で、全力を出せる人はいない。ゴールが見えて初めて、人はペースを作れる。

数を決めたら、何が変わったか

 私が関わった、ある食品工場での話だ。冷凍食品のラインで、「できるだけワッと作る」という方針でずっと動いていた。

 そこで一つだけ変えた。今日の目標個数を決め、原単位を箱に設定し、必要な人員を計算した上で1時間ごとに進捗をケースで見えるようにしたのだ。

ケースを用いた進捗見える化の例 ケースを用いた進捗見える化の例

 結果、2人の余力が生まれた。「できるだけ」でフル回転していたラインが、ペースと人員を決めることで、余った人員を生み出したのだ。その2人が、新商品の試作に取り組み始めた。新商品なので、まだ売れていない。しかしそれが、この工場の未来への布石になっている。

 そしてもう一つ、大切な変化があった。必要人員が見えると、「誰もが同じ作業ができるように」という課題が生まれる。特定の人に頼りきっている工程が、問題として顕在化するのだ。

 家庭に例えれば、妻がいないときに洗濯が止まってしまうなら、夫が洗濯機の使い方を覚えようという話になる。それと同じことが工場で起きる。「この仕事をできる人を増やそう」という議論が、現場から生まれてくるのだ。

 走れといわれて余力を出す人はいない。ゴールが見えて初めて、人は走り切り、その先を考えられる。そして仲間を育てようという気持ちも芽生えてくる。

社長の皆さまに、まずやってみてほしいこと

 全ての製品ラインで一度にやる必要はない。1つのラインで、1つの製品だけでいい。

 まず今日の目標数を決める。次に、個なのか箱なのかトレーなのか、管理しやすい単位を決める。そして1〜2時間ごとに進捗を確認する。それだけでいい。ぜひ朝礼で確認してほしい。

 目標を決めると、現場が変わる。何が遅れているか見えてくる。助け合いが生まれる。「なぜ遅れたか」を考える文化が、少しずつ育っていく。

 私はトヨタ自動車のエンジニアだったが、食品製造のプロではない。だからこそ気付く違和感がある。「できるだけ」という言葉の中に、まだ眠っている可能性があると、私は思っている。

 あなたの工場では今日、何個作ると決めましたか。

(続く)

著者プロフィール

田代勝良(たしろ かつよし) 

工場改善サービス株式会社 代表取締役

トヨタ自動車にて約16年間、生産技術・現場改善に従事。独立後は「社長より先に作業着を汚すコンサルタント」として中小製造業を中心にトヨタ生産方式ベースの現場改善コンサルティングを提供。中部産業連盟・日本能率協会などでのセミナー登壇実績多数。


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