シミュレーションによる時刻歴応答解析を理解するCAEと計測技術を使った振動・騒音対策(13)(5/5 ページ)

» 2023年08月28日 09時00分 公開
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減衰について

 シミュレーションでは減衰を考慮することができます。普通は「レーリー減衰」を選択して、定数αとβを入力することになります。減衰係数をCとすると、次式のようなイメージです。

式2 式2

 構造物の質量Mに係数αを掛けたものと、構造物の剛性Kに質量βを掛けたものの和が減衰係数となります。そして、この減衰係数に速度を掛け算したものが減衰力となります。なぜ、わざわざ質量Mと剛性Kが登場するのかというと、そうしないとうまく計算できないからです。極端な言い方ですが、αとβに物理的な意味はないようです。

 連載第12回では、図11のような系で振動を測定しました。

実験モーダル解析の測定系 図11 実験モーダル解析の測定系(連載第12回より)[クリックで拡大]

 このときは約2[s]で25[Hz]の振動が収まりました。今はチューナーがあるようですが、昔はギターのチューニングに音叉を使っていました。440[Hz]で「ラ」の音です。大体10[s]以上は音が鳴っています。振動数が高いほど減衰が早いので、音叉の方が早く減衰するはずですが、実際はこの逆です。

 このことから、図11のような系の減衰は鋼材が弾性変形するときに生じたものではないようです。おそらく、シャコ万力で挟んだ鋼の棒と作業机の接触部や、木製の作業机の変形で生じた減衰だと推測されます。何を言いたいのかというと「構造物の減衰は材料の減衰に関する物性値で生じるのではなく、多くの部品から構成される構造によって生じる」のです。減衰は材料の物性値ではないということは、ヤング率やポアソン比などと同列のものではないということです。

 次に、式2のCは、Cに速度を掛け算したものが減衰力となるのですが、減衰力が速度に比例するものばかりではなく、クーロン摩擦は速度に関係なく一定値の減衰力が運動方向と逆の方向に発生します。流体抵抗が減衰力ならば、速度の二乗に比例した減衰力となります。

 以上のことから、筆者はシミュレーションで精度良く減衰を考慮することに半ば「諦めムード」になっています。普段は減衰をゼロにして解析していました。実際は何らかの減衰があるので、解析結果は大き目の振動量になり、解析値が目標値よりも小さければこの案で設計を進めることにしていました。筆者の経験で一例だけ減衰をうまく表現できたものがあります。超音波溶接機では投入したエネルギーの大半が溶接部の摩擦に消費されます。フル法だと、接触要素を使ってクーロン摩擦が考慮できるので、共振周波数で加振して各点の応力振幅を求めたことがあります。



 実は、今回モチーフとした装置の振動対策はシミュレーションを用いて原因を探したのではなく、測定、つまり実験モーダル解析によって原因を探しました。作ってしまった装置を大改造できるはずはなく、対策の第1弾は台形の板を付けました。そして、次世代の装置設計時にC形チャンネル材を使用しました。

 さて、次回は今回の時刻歴応答解析と同等の結果が得られる振動測定について取り上げます。 (次回へ続く

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Profile

高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表


1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。

構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ


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