東京大学と東北大学は、ヒトとイヌの粘膜由来の悪性黒色腫において、膜タンパク質ポドプラニンが腫瘍細胞のアメーバ様遊走細胞を生み出し、転移を促進するメカニズムを発見した。
東京大学は2023年7月27日、ヒトとイヌの粘膜由来の悪性黒色腫(メラノーマ)において、共通した転移メカニズムを発見したと発表した。東北大学との共同研究による成果だ。
ヒトの粘膜型悪性黒色腫とイヌの口腔粘膜に由来する悪性黒色腫は、ともに転移率が高く、予後が悪いことが知られている。
イヌ口腔悪性黒色腫の腫瘍組織で、膜タンパク質ポドプラニン(PDPN)発現を調べたところ、腫瘍の中心部より正常組織との境界部でPDPN発現が高く、境界部のPDPN発現が高い患者は転移が早く予後が短かった。同様に、ヒトの粘膜型悪性黒色腫でも、PDPN高発現患者の予後が短いことが明らかとなった。
また、イヌのPDPN高発現腫瘍細胞では、PDPNを欠損させた腫瘍細胞と比べて、形を自由自在に変えることで正常細胞の隙間をくぐり抜けられるアメーバ様遊走細胞として増殖していることが明らかとなった。マウスモデルにおいても肺転移数は劇的に多かった。
機能解析の結果、PDPN高発現腫瘍細胞ではROCK-MLC2(Rho-associated kinase-Myosin light chain 2)シグナルが活性化していること、活性化によりアメーバ様遊走細胞に変化して、転移を促進していることが示唆された。
ヒトとイヌ、どちらも粘膜由来悪性黒色腫において、PDPN高発現患者ではROCK-MLC2シグナルに依存したアメーバ様遊走細胞に特徴的な遺伝子群が高発現しており、遺伝子の変動パターンは、ヒトとイヌの粘膜由来悪性黒色腫患者間で極めて類似していた。これにより、粘膜由来悪性黒色腫の転移メカニズムがヒトとイヌで共通していることが分かった。
今回の研究により、PDPNがヒトとイヌの粘膜由来悪性黒色腫の転移メカニズムに共通して関わっていること、新たな治療標的になり得ることが分かった。粘膜由来悪性黒色腫において転移機構がヒトとイヌで共通していることは、人と伴侶犬が日常生活だけでなく、がん研究においても助け合えるパートナーであることを示している。
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