大阪大学は、軽いジョギングなど、適度な運動が高血圧改善をもたらすメカニズムを解明した。足の着地時に物理的衝撃が脳に伝わることで脳内の間質液が流動し、血液調節中枢の細胞で血圧を上げるタンパク質の発現量が低下する。
大阪大学は2023年7月7日、ラットとヒトによる試験から、適度な運動が高血圧を改善するメカニズムを解明したと発表した。国立障害者リハビリテーションセンターらとの共同研究による成果だ。
研究グループは、高血圧ラットを用いた実験で、麻酔下のラット頭部に1Gの衝撃が加わるように毎秒2回のリズムで頭部を上下動させた。この動きを1日30分間、2〜3週間以上続けると、脳内の間質液が流動し、血圧調節中枢が存在する脳領域のアストロサイトに流体せん断力が加わり、血圧が低下した。この血圧下降は高血圧ラットにのみ見られ、正常血圧のラットでは血圧は低下しなかった。
また、1日30分間の運動あるいは脳の上下動を4週間実施することで、アストロサイトで血圧を上昇させるタンパク質、アンジオテンシン受容体の発現を低下させることが分かった。
ヒトでは、健康に良いとされる軽いジョギングや速歩きでも、足の着地時に脳に1Gの衝撃が加わる。そこで、座面が上下動して頭部に1Gの衝撃を与える椅子を作製し、高血圧症の患者に1日30分間、週3日、1カ月間座ってもらった。
その結果、高血圧の改善、交感神経活性の抑制が認められた。高血圧の改善効果は、座面上下動椅子に座ることを止めた後も約1カ月間持続した。
また、水泳や自転車こぎなどの運動でも、頭部には0.5G程度の衝撃が加わることが分かった。ラットを用いた実験では、0.5Gの衝撃でも1Gと同程度の血圧降下作用があることが確認された。
今回の研究から、適度な運動による頭部への適度な衝撃が、脳内の細胞に力学的刺激をもたらし、機能を調節するという分子の仕組みが判明した。この成果は、高血圧症の予防、改善に寄与するだけでなく、運動ができない患者や高齢者にも適用できる疑似運動療法の開発につながる可能性がある。
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