VR/ARが描くモノづくりのミライ 特集

「Apple Vision Pro」で何ができる? 製造業での活用の可能性を探る注目デバイス解説(4/4 ページ)

» 2023年07月11日 07時00分 公開
[林信行MONOist]
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「Vision Pro」の標準機能だけでも十分に業務活用できる!?

 以上のようなVision Pro対応アプリの登場を待たずとも、標準機能だけでも業務利用に役立ちそうなものが幾つもある。また、「iPhone」や「iPad」用のアプリの多くがVision Proでもそのまま動作することや、「MacBook」の仮想ディスプレイとして利用できる点も知っておきたい。

「Vision Pro」のホーム画面には見慣れたアイコンが並んでいる 「Vision Pro」のホーム画面には見慣れたアイコンが並んでいる[クリックで拡大] 出所:Apple

 Vision Proには、3Dオブジェクトを空間に表示するための標準機能が搭載されている。そもそも、AppleにとってAR対応デバイスはVision Proが初めてではなく、iPhone/iPad向けにAR機能を提供しており、それらのOS向けに「ARKit」というARアプリを開発するための開発キットも用意している。例えば、Pixarが開発した3Dオブジェクトのフォーマット「USDZ(Universal Scene Description)」形式の3DオブジェクトをiPhoneやiPadで開くだけで、AR空間に3Dオブジェクトを展開することが可能だ。

 Vision ProでもUSDZ形式の3Dオブジェクトを自分がいる空間に投影し、周囲を歩き回ったり、好きな位置に再配置したりといったことができる。また、そうした体験をさらに高めてくれるのが、LiDARスキャナーやTrueDepthカメラなどの豊富なセンサー類の存在だ。これらのおかげで、頭や手の動きを正確にトラッキングでき、リアルタイム3Dマッピングなどを実現している。

 筆者が体験した、ひらひらと飛ぶ蝶が差し出した指先の上に止まるというデモでは、位置ズレなど全くなく非常に高精度に3Dオブジェクトを配置できることが分かった。また、壁が2つに割れ、そこに恐竜が生息していた時代の原野が現れるというデモにおいても、2つに割れた壁の上辺、底辺ともにピッタリと位置合わせなされておりズレが全くなかった。

 「FaceTime」を使ったコミュニケーションやプレゼンテーションも業務に役立ちそうだ。Metaが目指したXRデバイス越しのビデオ通話は、自分の分身となる3Dアバターの“全身”を投影し、アバター同士でコミュニケーションするというものだが、Appleはもう少し実用性を重視したアプローチを採用している。

 Vision Proを通して、FaceTimeでビデオ通話すると、Vision Proで生成されたアバター(「Persona」と呼ばれる機能によりユーザーの顔に似せたリアルなCGが作られる)が空間上に映し出される。Personaで生成されたアバターは、視線や表情、口の動きなどを再現できる他、身振り手振りも表現できるため、資料を使ったプレゼンテーションなどを行う際、動きを交えた発表が行える。

 また、プレゼンテーション資料のような平面の情報を見る際は、通話中の参加者(のリアルなCG)が横一列に並んだ状態に配置され、3Dオブジェクトを見るときには対象を丸く取り囲むように表示される。実際の投影スライドや立体物を見ているのと同じように、人の並びやそれぞれの立ち位置からの見え方を、Vision Pro内で忠実に再現している。

「Apple Vision Pro」上で「FaceTime」によるビデオ通話を活用している様子 「Apple Vision Pro」上で「FaceTime」によるビデオ通話を活用している様子[クリックで拡大] 出所:Apple

 Vision Proでもう1つ押さえておきたいのが、Appleがこれまで他の製品で開発を進めてきた空間オーディオ、つまり「Dolby Atmos」に準拠した立体音響技術に対応していることだ。アーティストのAlicia Keysがプライベートでパフォーマンスをしてくれるというデモを体験したのだが、彼女の声がきちんと(投影された)彼女の口の方向から聞こえてきた。すると今度は、右の方からバックコーラスが聞こえてきたのでそちらを向いてみると、そこにはバックコーラスの女性2人が立っていた。

 このようにVision Proは、ただ視覚情報を伝達するだけのデバイスではなく、視覚と音響、そして、高精度な定位によって、「これは現実なのでは?」と勘違いしてしまうほどの、魔法のような体験を見事に生み出している。

 Appleは、iPhone/iPadを通じたAR体験を提供することで、どのようなニーズがあるのかをじっくりと模索し、品質や精度のブラッシュアップを何度も重ねた上で、スマートフォンやタブレット端末、そして既存のXRデバイスでは実現できない最高レベルの体験が味わえるデバイスとしてVision Proを完成させた。

 Vision Proが持つ精度と体験の質の高さが呼び水となり、製品が発売されるまでには製造業で役立ちそうなVision Pro対応アプリもたくさん登場するのではないかと期待している。なお、そうしたアプリを作りたいと考えている開発者向けに、Appleはこの夏(2023年夏)、Vision Pro開発者向けアプリテスト施設「Apple Vision Pro Developer Labs」を東京に開設する予定だ。

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