オンラインイベント「Unity道場 自動車編」において、トヨタ自動車 サービス技術部 主幹の栢野浩一氏が登壇し、「トヨタのxR活用で進める現場DXへの挑戦 〜UnityとHoloLens 2を用いて〜」をテーマに、販売店への展開を中心としたサービス技術領域における「HoloLens 2」を活用した取り組みや、xR技術の試行事例などについて紹介した。
リアルタイム開発プラットフォーム「Unity」の開発者向けオンラインイベント「Unity道場 自動車編」(会期:2021年10月7日/主催:ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)において、トヨタ自動車 サービス技術部 主幹の栢野浩一氏が登壇し、「トヨタのxR活用で進める現場DXへの挑戦 〜UnityとHoloLens 2を用いて〜」をテーマに、販売店への展開を中心としたサービス技術領域における「HoloLens 2」を活用した取り組みや、xR(VR/AR/MR)技術の試行事例などについて紹介した。本稿ではその内容をダイジェストでお届けする。
なお、現在YouTubeにて、イベント当日の模様を収録したアーカイブが一般公開されている。トヨタ自動車 栢野氏の講演は最後のセッションとなる。
トヨタ自動車における“サービス技術領域でのデータ活用”の歴史の中で、xR活用に向けた試行は、ちょうどマイクロソフトが初代「HoloLens」を開発者向けに発売した2016年ごろから始まったという。
そして、現在、同社は“TOYOTA GAZOO Racing”から誕生したスポーツカーブランド「GR」のブランド構築拠点であり、クルマファンが集う「町いちばんの楽しいクルマ屋さん」を目指し全国展開している「GR Garage(GRガレージ)」において、全国57店舗(2021年1月時点)の修理メンテナンスやトレーニングなどにHoloLens 2を役立てている。
同社におけるHoloLens 2の本格展開のきっかけについて、栢野氏は「2016年末にHoloLensを何とか入手した後、自分自身でUnityとマイクロソフトが公開していたサンプルをダウンロードして技術を習得し、車両のボディー構造データを閲覧できるデモ用のMR(複合現実)コンテンツを作成。それを情報部門の役員に見せたところ、プロジェクト化のGOサインがすぐに下りた」と当時を振り返る。その後、会社訪問やイベントなどを通じて、マイクロソフトとの技術交流を深めつつ、現場活用を見据えた本番コンテンツの作成を進め、HoloLens 2発売後、2020年10月から販売店(GRガレージ)への本格展開を進めてきたという。
現在、販売店で展開しているHoloLens 2向けのMRコンテンツは「配線図」「新型車解説」「コミュニケーション」「トレーニング、ガイド」の大きく4つある。このうち「配線図」と「新型車解説」は同社内製アプリとしてUnityで開発。一方「コミュニケーション」と「トレーニング、ガイド」は当初Unityでの開発を試行していたが、最終的にマイクロソフトの製品「Dynamics 365 Remote Assist」や「Dynamics 365 Guides」を導入する形で実現しているという。「こうしたコンテンツの多くは、当社の中堅・若手社員が中心となって企画、推進している」(栢野氏)。
修理メンテナンス作業向けにUnityで開発された「配線図」は、MR技術を活用し、これまで分かりづらかった部品やコネクターの配置を直感的に理解することを助けたり、配線に関する情報を目の前に一括表示して作業を支援したりするものだ。「従来、2次元の配線図で位置を確認したり、さまざまな資料から配線やピンの情報を確認したりして修理メンテナンス作業を行っていた。これに対してUnityで開発した『配線図』はHoloLens 2の特長を生かし、部品やコネクター、配線などの位置を投影して視覚的に示すことができる他、ジェスチャーコントロールによってパーツを選んだり、必要な情報を取り出したりすることが可能だ。また、アイトラッキングや音声入力にも対応しており、ハンズフリーでの作業支援を実現している」と栢野氏は語る。なお、コンテンツ自体はまだ進化の途中にあり、販売店のエンジニアからの声を開発にフィードバックしながら日々改良を進めているという。
「新型車解説」は新型車が発売された際に、その特長や新機能などをMR技術で車両上に表示して、分かりやすく紹介するコンテンツとなる。Webや解説書などの2Dの情報だけでは分かりづらい特長などを、MR技術によって実車に投影することで理解を深めることができる。また、ナレーションも付いているため、エンジニアの自己学習などにも役立てることが可能だという。講演では「GRヤリス」向けに用意した空力、4WD、ボディー、エンジンの機能解説のうち、空力について紹介した。ちなみに、CAEの結果を直接取り込むことも可能だが、今回は解説としてイメージ化したものを分かりやすくコンテンツ化しているとのことだ。「こちらも若手社員が中心となって、MRでどう分かりやすく新型車の特長を伝えるかなど、コンテンツの企画や展開を推進している」(栢野氏)。
HoloLens 2とMRコンテンツの活用は、販売店のエンジニアたちからも大変好評だとし、中には、新入社員研修やリクルート活動(学生向け体験イベントなど)、SNSやYouTubeを活用した情報発信、集客誘致などにも役立てられているという。
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