Vision Proの優れた映像品質や定位精度の高さは、専用OS「visionOS」や高度なセンサー類、高速なプロセッサ(Macにも搭載されている「M2」チップと新開発の「R1」チップを搭載)のおかげもあるが、それだけでなく、超高解像度のディスプレイや高品質なレンズなど、細部にまでこだわった総合的な作り込みによるものだといえる。
例えば、視力の悪い人は事前にVision Pro用のインサートレンズ(矯正レンズ)を用意しておく必要があるが、このレンズがドイツの光学機器大手であるZEISS製のものなのだ。余談になるが、ちょうどこの春、筆者の友人がZEISS製のメガネを購入したのだが、その価格は約30万円と高額だったものの、視界が一気に明瞭になり、それまで感じていた頭痛もなくなったと喜んでいた。
デジタル上の表現でどれほど工夫しても、その情報は最終的に人間の目を通してわれわれの脳に伝達される。Appleは視力が悪くメガネをかけている人の体験価値を下げてしまうようなことはせず、かつ長時間の使用も視野に入れて、こうした部分にもこだわり抜いたのだろう。
立体空間を平面のディスプレイで再現しようとすると歪みが生じてしまうため、デバイスのディスプレイ越しに周囲の状況を確認しながら歩き回っていると酔いが生じることもある(いわゆる「VR酔い」というやつだ)。筆者はもともとVR酔いへの耐性が強い方ではあるが、実際、Vision Proを装着して数分間、室内を歩き回ってみたが酔いは一切感じなかった。それどころか、よほど映像表現の調整がしっかりしているのか、現実空間で実際に見るよりも少しだけ暗いことを除けば、そもそも平面ディスプレイ越しの景色であるということを忘れてしまうほど快適に利用できた。
Vision Proを使っていると、まるで魔法やSF映画の世界に入り込んだような錯覚さえ覚える。そうした体験を支えている要素の1つが、優れたユーザーインタフェース(UI)だ。Vision Proでアプリの操作などを行う際は、基本的に視線と指によるジェスチャーの組み合わせで行う。
例えば、空間に浮かび上がる「ホーム」ビューに並ぶアプリのアイコンに視線を向けると、じっと見つめているアイコンだけが立体的に表示される。別のアイコンに目をやれば、今度はそのアイコンが同様の選択状態になる。この状態で、親指と人差し指をくっつける「選択」のジェスチャー操作を行うと、アプリを起動できる。この基本操作はHoloLens 2に似ているが、ズレやジェスチャーの誤認識がほぼなく、直感的かつストレスフリーで使えるレベルにブラシュアップされているのがVision Proの強みだ。
さらに、起動したアプリのウィンドウの下にある横棒(ウィンドウ移動のためのツマミ)を見つめて、親指と人差し指をくっつけるジェスチャーを行うと、そのウィンドウをつまむことができ、その状態で手を伸ばしてウィンドウを遠くに配置したり、近づけて配置したりすることが可能だ。
Vision Proは、視線と指先のジェスチャーだけでさまざまな操作が行える。VR用のコントローラーのように、余計な道具を手に持つ必要がなく、全ての機能を直感的に操作できる。このあたりのUIは本当によく整理されている。実際に、数分程度体験しただけで基本操作をマスターできてしまう。これもVision Proの大きな特長であり、魅力といえよう。Appleは空間コンピューティングに関するガイドラインを整備しており、基本操作の方法や、どのようにアプリをデザインしたら良い体験をつくり出せるかなどを追求している。
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