ミラノデザインウィークの中で、“国際的若手デザイナーの登竜門”とうたわれ注目を集めているのが「サローネサテリテ」だ。これまで数々のスターデザイナーを輩出してきた同展示会で、若手日本人デザイナーたちの活躍が目立った。現地取材の模様をお届けする。
毎年4月にイタリア・ミラノで開催される世界最大のデザインイベント「ミラノデザインウィーク」には、例年世界中から40万人近い人々が会場を訪れる。2023年4月18日に開幕した今回のミラノデザインウィークでは約30.5万人が来場したそうだ。ちなみに、その数は米国ラスベガスで開催される世界最大規模の技術見本市「CES」よりも多い。CESの場合は例年17万人程度といわれ、2023年1月開催の「CES 2023」で約11万人が来場した。
もともとは、1961年にイタリアの家具メーカーが集結し開催する見本市「Salone del Mobile(サローネ・デル・モービレ)」としてスタート。よく聞く「ミラノサローネ」という呼び方は、何度か正式名称が変わっている同イベントの通称だ。この巨大見本市は、細かく見るとインテリア小物見本市、キッチン見本市、バスルーム見本市、そして隔年開催のオフィス見本市と照明見本市など、それぞれ世界最大級のいくつかの見本市の集合体となっており、東京ビッグサイトの約6倍の大きさの巨大展示場「フィエラ ミラノ」で開催されている。
だが、正確にはそれだけではない。会期中はミラノの街中、東京でいうところの表参道のようなブランド街や天王洲アイルにあたるような倉庫街などで、街単位あるいはブランド単独による数十ものデザインイベントが同時開催される。最近、こうしたデザインイベント全体の総称として「ミラノデザインウィーク」の名称が使われている。
商談が中心の見本市会場には足を運ばず、ユニークな展示の多い街中のイベントだけを楽しむ人も少なくない。だが、そんな人たちでも一目置いている展示会場のイベントが「SaloneSatellite(サローネサテリテ/以下、サテリテ)」だ。
25年前の1998年から始まったサテリテは、デザイナーの顔が見える小規模のデザイン会社(や招待したデザイン学校)の展覧会で「35歳未満」という年齢制限もあり、“国際的若手デザイナーの登竜門”といわれている。
今の日本を代表するデザイナーnendo(ネンド)の佐藤オオキ氏も、サテリテへの出展をきっかけにその名が知られるようになった(nendoは、東京2020オリンピックの聖火台を手掛けたことなどでも有名)。今年(2023年)も、このサテリテが若手デザイナーの飛躍の上でいかに大きな役割を果たしているかを再確認する出来事があった。
今回のサテリテは、2年に1度の開催で注目度が高いサローネ国際照明見本市「Euroluce(エウロルーチェ)」のメイン展示会場と同じホールで開催された。ホールを入ってすぐの所にあるフランスの高級照明ブランドDCW editions(DCWエディションズ)のブースでは、日本人デザイナーの沖津雄司氏がデザインした照明「FOCUS」がメイン展示に採用され、ブース正面に飾られていた。
FOCUSは、レンズをはめ込んだリングがたくさんぶら下げられたモビールのような照明で、レンズを通して、設置された場所の光や風景、空気感に変化をもたらしながら再構築するというコンセプトの作品だ。風などで自然に揺れるリングに、周囲の人々や景色、他のリングの光などが映り込み、眺めていて楽しく、多くの人々が写真を撮るフォトスポットとなっていた。
実はこのFOCUSという作品、沖津氏が2018年のサテリテで発表したもの。最初は日本の無名デザイナーによる展示だったものが、わずか5年で世界中で製品を展開する有名照明ブランドのメイン展示に採用されたというわけだ。これは筆者としても感慨深いものだった。
サテリテは、世界中からたくさんの応募がある中、厳しい審査をパスした若手600人だけが出展できるイベントで、会期中26万人ほどの来場者が訪れるという。沖津氏の例が示すように、ブランド側にとってサテリテという展示会は、次のスターデザイナーを高確率で発掘できる場所でもあるのだ。
それと同時に、サテリテは日本の若手デザイナーがいかに優秀かを肌で実感できる場でもある。今年も、若手日本人デザイナーが大きな活躍を見せていた。
近年、製造業をはじめとするモノづくり企業でも、環境配慮やサステナビリティ(持続可能性)など、若い人々の感性を取り入れた製品開発が欠かせないものになりつつある。以降では、そうした開発に力を発揮してくれそうな優秀な日本人デザイナーの展示をいくつか紹介したい。
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