サステナブルなモノづくりの実現

デザイナーの登竜門「サローネサテリテ」で活躍する日本の若手3Dプリンタ使いたち林信行が見たデザイン最前線(2)(2/3 ページ)

» 2023年05月16日 09時00分 公開
[林信行MONOist]

注目を集める日本の3Dプリンタ活用、最優秀展示はHONOKAが受賞

 サテリテでは2010年以降、最も優秀な展示を選ぶ「サローネサテリテ・アワード」を開催している。実は今回そのグランプリを日本の展示が受賞した。受賞したのは、既にニュース記事「廃棄された畳のイ草と生分解性樹脂で3Dプリント家具を製作、畳の魅力を次世代へ」でも紹介した有志デザイナー6人で構成されるデザインラボ「HONOKA」による家具シリーズ「Tatami ReFab Project」だ。

 このプロジェクトでは、廃棄される畳の原料であるイ草と生分解性樹脂である酢酸セルロースを混ぜた環境にも優しい材料を、ExtraBoldの設備と技術を活用して独自開発している。それぞれの作品は、ExtraBoldの大型3D付加製造機(大型3Dプリンタ)「EXF-12」で造形され、美しいインテリアとして仕上げられている。

HONOKAによる「Tatami ReFab Project」の展示ブース 画像2 HONOKAによる「Tatami ReFab Project」の展示ブース。横長のブースでは8種類の展示を行っていた。左から日本の伝統文様「千筋」をモチーフにしたスツール「CHIGUSA」、束ねたイ草をモチーフにした照明「TABA」、ランプシェードとテーブルは「SORI」と「MUKURI」、積層痕が生み出すモアレが木目のようにも見える「YOCELL」[クリックで拡大](撮影:筆者)

 例えば、線で構成された複雑な形状を施したり、日本の伝統文様を再現するために造形中に材料の配合を調整したり、同じ形状でも樹脂の吐出量を変えて表現に変化を持たせたりなど、6人のデザイナーたちは作品ごとに創意工夫を凝らしながらデザインを突き詰めていったという(以下、動画参照のこと)。

動画1 「Tatami ReFab Project」を手掛けるHONOKAのブース取材の様子(撮影:筆者)

 会場では、造形中に材料の配合を調整して作ったという美しい緑のグラデーション表現や、「千筋」「麻の葉」「立涌」といった伝統文様の再現、さらには日本文化を感じさせる生花などのモチーフが高い評価を得ていた。

平面的な編み模様を立体的に再構築したスツールとランプシェード「AMI」 画像3 左から、平面的な編み模様を立体的に再構築したスツールとランプシェード「AMI」、実は一番こだわったのは薄く見えるように工夫した水栓の先端だという洗面台「TACHIWAKI」、束ねたイ草をモチーフにした照明「TABA」と生け花のようにあらゆる角度や位置に植物を差し込むことができる花器「KOHSHI」[クリックで拡大](撮影:筆者)

 サテリテの展示会場でもう1つ、HONOKAと同じく3Dプリンタを使った作品で大きな注目を集めていたのがsekisai(積彩)の展示ブースだ。

sekisaiの展示ブース 画像4 sekisaiの展示ブース。sekisaiの作品の魅力は眺める角度によって変わる見え方にある[クリックで拡大](撮影:筆者)

 積彩は、見る角度によって色彩が刻々と変化する独自開発の視覚効果「Phantasmagorical Skin」という3Dプリンティングによる造形技術で大きな注目を集める、大日方伸氏が代表を務めるデザイン事務所だ。

 最大4色のフィラメントを用い、綿密に計算された起伏の上下左右などの向きによって配合を変えることで、色の変化を生み出している。起伏の形や色の選択によって色模様がアニメーションしたり、光沢のように見えたりする。

 これまで巨大アート作品や器、花瓶、イヤリングなどのアクセサリーを作ってきたが、今回は花瓶やペンダントライト、アニメーションする模様が心地よい壁面パネル「Transtone Wind」のシリーズとともに、家具のイベントであるミラノサローネ出展ということもあり、新作のスタンドライト1点とイージーチェア1点を製作/出品していた。

 スタンドライトの新作「YU」では、あえて色を捨て、木材や綿花から得られるセルロースを原料とした透明素材を用いた造形により、美しい光の揺らぎを生み出した。一方、イージーチェアの新作「Moon Light Blue」では、光沢のような色の変化で光る月と青い夜空の風景を表現したという(パイプフレーム部分の製作は、東京・大田区の町工場であるハタノ製作所が担当)。

動画2 見る角度によって色彩が刻々と変化する独自開発の視覚効果「Phantasmagorical Skin」技術を有するsekisaiのブース取材の様子(撮影:筆者)

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