日本以外でも工業は「産業の稼ぎ頭」なのか? 先進国のデータを分析する小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(11)(2/2 ページ)

» 2023年06月01日 06時00分 公開
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日本が「強かった時代」の生産性は?

 日本は1990年代にさまざまな経済指標が高まり、その後停滞が続いています。では、日本経済が強かったかつてはどのような状況だったのでしょうか。主要国のデータが出そろい始める2000年の状況を、前節同様に眺めてみましょう。

図2: 産業別の労働者1人あたり付加価値(2000年)[クリックして拡大] 出所:OECD統計データを基に筆者にて作成

 図2が2000年のグラフです。図1と比較していただきたいのですが、当時は日本(青)の生産性の水準が総じて高く、他国よりも抜きんでた存在であったことが分かります。特に、情報通信業や金融保険業の生産性は高く、工業や他の産業でも主要国で最も高水準にある国でした。

 一方、他の主要国は当時から公務・教育・保健の労働者数シェアが高く、既に公共性の高い産業に重心が移っていた状況がうかがえます。当時の日本の公務・教育・保健は生産性こそ他国よりも高いものの、労働者数のシェアは他国と比較して極端に小さい状況だったようです。

 表2に2000年の全産業平均値を国別にまとめました。なお、2000年の為替レート(年平均値)は次の通り算出しています。

  • 1ドル=107.8円/1.08ユーロ/0.66ポンド/1.49カナダドル
表2:産業別(不動産業以外)の労働者1人あたり付加価値(単位:ドル)(上段)/労働者数シェア(下段)※2000年
工業 情報通信業 金融保険業 公務・教育・保健 全産業平均
日本 9万9293 16万935 13万9806 8万15 6万8703
20.0% 2.3% 2.8% 13.3% -
アメリカ 8万4593 9万6004 11万332 5万7179 6万4086
15.9% 4.2% 4.9% 25.3% -
ドイツ 5万3012 7万4225 6万986 3万3209 3万9638
21.5% 2.7% 3.3% 22.9% -
フランス 6万2082 8万7152 5万2120 3万3939 4万3179
14.8% 2.9% 2.8% 29.7% -
イギリス 7万1622 8万8045 8万9433 3万7125 4万7063
14.9% 3.8% 4.1% 23.2% -
G7平均 7万799 9万1718 8万6322 4万4586 4万9192
17.8% 3.1% 3.8% 22.5% -

産業の稼ぎ頭をどれだけ維持/拡大できるか

 今回は主要国の産業別の生産性と、労働者数のシェアについて着目してみました。2000年には既に、他の主要国では産業の中心が工業から公共サービスへと移っていたことがうかがえます。

 その傾向は2021年でも強まっていて、各国とも全体的に生産性を高めながらも、工業から公共的サービス業へのシフトが進んでいます。各国の工業の労働者数シェアが低下し、公務・教育・保健のシェアが拡大していることからもそれが読み取れますね。

 日本も遅ればせながら、公務・教育・保健の労働者数シェアを拡大させていますが、まだ水準としては低い方になります。全般的に生産性も主要国の中では下位に落ち込んでいます。

 また、各国で専門サービス業の拡大も見られますが、米国以外の主要国では生産性の比較的低い、業務支援的な産業の拡大が予想されます。

 専門サービス業には、公認会計士やコンサルタントなどの比較的生産性(対価)の高い専門、科学および技術サービスに加えて、職業紹介業、事務管理などの比較的生産性の低い管理・支援サービス業も含まれます。総じて見ると、専門サービス業は拡大傾向を継続させながらも、生産性は中程度の産業となっています。

 先進国では工業からサービス業への転換が、あたかも自然現象のように語られる事が多いようですが、その背景には高い生産性のまま拡大できる産業がなかなか無く、強みのある産業以外は新興国などへの海外移転が進み、国内の労働者数が減少していくという各国の事情も垣間見られます。

 特に日本では大手メーカーの海外移転が進んできましたが、海外メーカーの日本進出が極端に少ない「日本型グローバリズム」ともいえる、流出一方の製造業のグローバル化(産業の空洞化)が進んでいます。

 生産性の高い、産業の稼ぎ頭である工業をどれだけ国内で維持/拡大できるか。国内経済の底上げをしていく上で、これが非常に重要なことが分かる結果ではないでしょうか。

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筆者紹介

小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役

 慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。

 医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。


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