日本は1990年代にさまざまな経済指標が高まり、その後停滞が続いています。では、日本経済が強かったかつてはどのような状況だったのでしょうか。主要国のデータが出そろい始める2000年の状況を、前節同様に眺めてみましょう。
図2が2000年のグラフです。図1と比較していただきたいのですが、当時は日本(青)の生産性の水準が総じて高く、他国よりも抜きんでた存在であったことが分かります。特に、情報通信業や金融保険業の生産性は高く、工業や他の産業でも主要国で最も高水準にある国でした。
一方、他の主要国は当時から公務・教育・保健の労働者数シェアが高く、既に公共性の高い産業に重心が移っていた状況がうかがえます。当時の日本の公務・教育・保健は生産性こそ他国よりも高いものの、労働者数のシェアは他国と比較して極端に小さい状況だったようです。
表2に2000年の全産業平均値を国別にまとめました。なお、2000年の為替レート(年平均値)は次の通り算出しています。
国 | 工業 | 情報通信業 | 金融保険業 | 公務・教育・保健 | 全産業平均 |
---|---|---|---|---|---|
日本 | 9万9293 | 16万935 | 13万9806 | 8万15 | 6万8703 |
20.0% | 2.3% | 2.8% | 13.3% | - | |
アメリカ | 8万4593 | 9万6004 | 11万332 | 5万7179 | 6万4086 |
15.9% | 4.2% | 4.9% | 25.3% | - | |
ドイツ | 5万3012 | 7万4225 | 6万986 | 3万3209 | 3万9638 |
21.5% | 2.7% | 3.3% | 22.9% | - | |
フランス | 6万2082 | 8万7152 | 5万2120 | 3万3939 | 4万3179 |
14.8% | 2.9% | 2.8% | 29.7% | - | |
イギリス | 7万1622 | 8万8045 | 8万9433 | 3万7125 | 4万7063 |
14.9% | 3.8% | 4.1% | 23.2% | - | |
G7平均 | 7万799 | 9万1718 | 8万6322 | 4万4586 | 4万9192 |
17.8% | 3.1% | 3.8% | 22.5% | - | |
今回は主要国の産業別の生産性と、労働者数のシェアについて着目してみました。2000年には既に、他の主要国では産業の中心が工業から公共サービスへと移っていたことがうかがえます。
その傾向は2021年でも強まっていて、各国とも全体的に生産性を高めながらも、工業から公共的サービス業へのシフトが進んでいます。各国の工業の労働者数シェアが低下し、公務・教育・保健のシェアが拡大していることからもそれが読み取れますね。
日本も遅ればせながら、公務・教育・保健の労働者数シェアを拡大させていますが、まだ水準としては低い方になります。全般的に生産性も主要国の中では下位に落ち込んでいます。
また、各国で専門サービス業の拡大も見られますが、米国以外の主要国では生産性の比較的低い、業務支援的な産業の拡大が予想されます。
専門サービス業には、公認会計士やコンサルタントなどの比較的生産性(対価)の高い専門、科学および技術サービスに加えて、職業紹介業、事務管理などの比較的生産性の低い管理・支援サービス業も含まれます。総じて見ると、専門サービス業は拡大傾向を継続させながらも、生産性は中程度の産業となっています。
先進国では工業からサービス業への転換が、あたかも自然現象のように語られる事が多いようですが、その背景には高い生産性のまま拡大できる産業がなかなか無く、強みのある産業以外は新興国などへの海外移転が進み、国内の労働者数が減少していくという各国の事情も垣間見られます。
特に日本では大手メーカーの海外移転が進んできましたが、海外メーカーの日本進出が極端に少ない「日本型グローバリズム」ともいえる、流出一方の製造業のグローバル化(産業の空洞化)が進んでいます。
生産性の高い、産業の稼ぎ頭である工業をどれだけ国内で維持/拡大できるか。国内経済の底上げをしていく上で、これが非常に重要なことが分かる結果ではないでしょうか。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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