ここまでオンライン展示会ならではの利点を書いてきた。コロナ禍以降もさまざまな可能性を秘めているとは思うのだが、一方で来場者の目線に立つと、解決すべき課題も多い。
オンライン展示会への来場者を増やすために、著名人のオンライン講演を企画、開催している様子をよく見かける。だが、実際には著名人の講演を聞いたらすぐに離脱してしまうユーザーも多い。実際に出展ブースを閲覧してもらうための導線設計が課題になるだろう。
これは後述の「参加自体の楽しみ」にもつながるが、出展ブースに立ち寄ること自体が楽しくなるような仕掛けを考える必要がある。
リアル展示会の経験を仮想空間でそのまま体感できるようにするのは難しい。視覚と聴覚はある程度再現可能だが、問題になるのは味覚/嗅覚/触覚だ。
脱臭機を展示する例を考えてみよう。脱臭機を起動する前後の効果の違いをオンラインで説明しても、それを実感してもらうことは難しい。これについては出展者側で対策を講じられることもある。臭いの表現として色のついた煙などを用いることで、視聴者に嗅覚の代わりに視覚で納得感を得てもらうといった工夫だ。
リアル展示会は参加すること自体にも一定の楽しみがある。会場では趣向を凝らしたノベルティが配られており、照明や展示物を工夫した各社のブースは華やかで、それだけでも楽しめる。なかなか直接見る機会のない商材に手で触れたり、疑問点を直接すぐにスタッフに質問したりと、知的好奇心を満たすこともできる。
息抜きができるというのも、展示会の楽しさを構成する要素の1つだろう。例えば、数多くの展示会を開催する東京ビッグサイトのレストランフロアには、さまざまな飲食店がテナントで入っている。ランチの時間にこれらの店舗を訪れて食事し、退館後には同僚と近くで一杯飲みに行く。これも、実はリアル展示会とセットで捉えるべき「楽しさ」ではないか。
オンライン展示会でこうした体験を得ることは難しい。だが、リアル展示会と同じように参加すること自体に付加価値を持たせることで、より強い参加のインセンティブを与えることができるだろう。
ではコロナ以降、製造業はオンライン展示会をどう活用していけばよいか。コロナ禍で展示会や説明会を含めたオンラインコミュニケーションがある程度一般化したことを踏まえると、展示会マーケティングの方向性としては次の3つが考えられる。
ここで製造業に提案するのは、この3つを段階的かつ戦略的に組み合わせる方法だ。
本記事の主題であるオンライン展示会だが、出展コストが低い一方で、多くのリード(見込み客の名刺情報)獲得を見込めるのが長所だ。このことから、展示会の“入門編”と位置付けることができるだろう。出展経験の浅い製造業は、まずは低コストで第三者主催のオンライン展示会に参加して、自社に興味を持つリード客を大量に獲得することを目指すのも手だ。
リアル展示会を自社で主催するのは、一部の大企業を除くとコストの面でも人手の面でも負担が大きく実現は難しい。しかし、オンライン展示会なら自社主催も十分可能だ。小規模なものであれば説明会と呼ぶべきかもしれない。
自社主催の場合、活用したいのが1のオンライン展示会で獲得したリード情報だ。自社独自の展示会を開催する中で、自社製品や顧客にもたらすメリットを十分に時間をかけて訴求していくことができる。
実際に製品を手に取ってもらう場としてリアル展示会にも出展する。1や2で接点を持ったリード客に告知を行い、足を運んでもらうのだ。
つまり、展示会(説明会)を用いたマーケティングにおいて、オンライン展示会は第1ステップとして位置付けられる。このように捉えれば、Afterコロナのマーケティングでも十分に活用できるはずだ。
最後に、オンライン展示会の出展を検討している製造業の方に、成功のためのポイントをいくつか紹介しよう。
B2Bの製造業をターゲットにする営業担当者は、日々の営業活動では得意先である既存顧客を訪問するルートセールスを多く行う傾向にある。この場合、顧客と自社の間では製品に関する基礎知識が共有されている。大半の顧客については、自社の販売した製品をどこに、どう使うかをある程度把握できてすらいるのだ。
だが、特にオンライン展示会では前提知識がなく、ふらっと自社ブースを眺めていくだけの来場者も多い。そのため、「この製品がそもそもどこにどのように使われるか」「この製品を導入することでどのようなメリットを顧客に与えることができるか」など、根本的な話から説明する必要がある。相手に十分な知識があることを前提に、説明文を記載するだけでは十分でない。大事なことだが、忘れられやすいポイントだ。
来場者がオンライン展示会内で企業を探す際には、検索窓に何かしらのテーマ(キーワード)を入力して探す。そのため、そのキーワードをしっかりと会社説明に入れ込み、検索にヒットさせる必要がある。製品名や型名のみしか記載していないと見つけてもらえないケースが多い。
例えば、雷対策の製品にSPD(サージ防護デバイス)というものがある。会社説明欄には「SPD」だけでなく、「雷対策」「災害対策」「BCP」など、製品そのものより一回り広い、顧客課題を念頭に置いたキーワードを盛り込んでおく、といった対策が必要だ。
サムネイル画像も、来場者がクリックするかを決める重要なポイントだ。製品だけを載せた画像ではなく、「○○に効果あり」や「○○が□□%削減」など、顧客へのメリットを分かりやすくテキストで説明するといった工夫がいるだろう。
オンライン展示会にはさまざまな課題があるが、その特徴を見直せばコロナ以降も十分に活用できよう。リアル展示会の効果は周知の通りだが、出展コストの低いオンライン展示会をマーケティングの第一ステップとして位置付け、費用対効果の高い新規顧客の獲得方法としていつでも利用できる手札にしておきたい。
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卜部克哉(うらべ かつや)
テクノポート株式会社 技術ライティング事業部 営業マネージャー
通信機器メーカーでの法人営業を経てWebマーケティングコンサルタントへ。セールスとWebマーケティング(サイト改善/SEO/Web広告など)両方の視点から製造業の認知拡大とリード獲得施策を得意としている。
清永健一(きよなが けんいち)
株式会社展示会営業マーケティング 代表取締役。中小企業診断士
展示会やオンライン展示会を活用した売上増大の技術を伝える専門家。中小企業への売上サポート実績は1300社を超える。NHKラジオ総合で展示会の未来について言及するなど、展示会業界活性化にも尽力。展示会活用に関してテレビ等出演のほか、行政、公益法人、金融機関などで講演多数。著書は『最新版 飛び込みなしで「新規顧客」がドンドン押し寄せる「展示会営業」術』他7作。
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