withコロナ時代をメーカーが生き抜くために、「個客理解」の重要性がこれまで以上に増しているとサントリー酒類は指摘する。AIなどを用いたDXを推進することで、顧客の価値観の変遷に合わせて柔軟にマーケティング戦略を構築していく必要がある。
リテールAI研究会は2020年6月2日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がメーカーや小売、流通企業にもたらす変化などをテーマとしたセミナーをオンラインで開催した。当日の講演から、サントリー酒類 広域営業本部 兼 営業推進本部 部長 リテールAI推進チームでシニアリーダーを務める中村直人氏の講演内容を抜粋して紹介する。
中村氏は「COVID-19の感染拡大を境にして、消費者の価値観が変化している」と指摘する。具体的には感染への警戒心から店舗のレジレスやキャッシュレス化を求める傾向が強まった他、店舗での滞在時間を可能な限り短縮するために目当ての商品が在庫にあるかを事前に確認できるアプリへのニーズが加速している。この他にも、内食製品の品ぞろえを重視する、複数店舗の買い回りを防ぐために1つの店舗でまとめ買いをする傾向も強まっているという。
こうした価値観の変遷に対して、中村氏は「主にECサイトでの販売を行っている企業であれば、サイト上で取得したユーザーの行動データから価値観の変遷を把握し、消費者のニーズ変化に応じた施策を逐次打ち出すことも容易だろう。だが当社をはじめ、販売構成比の大半を小売店舗での販売が占めている企業も少なくない。こうした企業にとって重要なのは、ポイントはDX(デジタルトランスフォーメーション)を通じて個客の体験価値をいかに最大化できるかという点だ。リアルチャネルの売り上げ傾向をしっかりと見える化して『個客理解』を進めなければならない。これにより顧客のファン化が進み、売り上げ向上が期待できる他、物流の最適化と在庫の適正化も実現でき、全体のコスト低減も可能になる」と語った。
個客理解を進める上で重要となるのが、ID-POS(個客情報にひも付いたPOSデータ)などの購買データをいかに活用するかという点だ。これに商品の品目別の売り上げデータを組み合わせることで、どのような個客がどのような商品を購入したかを把握、分析して、個客価値を最大化するためのマーケティング施策を考案することが可能になる。
こうしたデータの見える化と分析を行うため、サントリー酒類は専用のデータ分析システムを開発している。メーカーや流通企業などから収集したデータをクラウド上に一括で格納して、客数や商品単価、来店頻度などの項目別に分析できる仕組みを作った。これにより、現在抱えているマーケティングの課題を見える化できる。店舗ごと、品目ごとの売り上げ分析にも対応しており「タイムリーなデータの見える化」を実現するという。
またサントリー酒類はリテールAI(人工知能)プラットフォームプロジェクト「REAIL」にも参加するなど、AIを活用したDXにも取り組んでいる。リテールAIカメラで売り場を把握して消費者の購買行動を分析することで、個客の買い物体験を向上させていく手掛かりをつかむことなどを目標としている。
withコロナ時代にメーカーがとるべきマーケティング戦略について、中村氏は「メーカーのマーケティング戦略を、製品を売り切ればよいという従来の『製品販売型』の価値観から、個客の体験価値を重視する『体験提供型』の価値観へと切り替えなければならない。マーケティング部署だけではなく、流通、メーカーと協働しつつ、データを駆使したマーケティング戦略を構築していく必要がある」と語った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.