労働力不足の影響が顕著になっている小売店舗は、IoTやAI、ロボットといったデジタル技術の活用による業務効率化が喫緊の課題だ。その中でも、カメラで撮影したデータから小売店舗内における顧客の購買行動や動線などを分析する「リテールAI」が注目を集めている。
IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ロボットといったデジタル技術は、製造業にとどまらず、さまざまな産業でその活用が真剣に検討されている。特に、労働力不足の影響が顕著になっている小売店舗は、これらのデジタル技術の活用による業務効率化は喫緊の課題だ。コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどでキャッシュレス決済やセルフレジの導入が進んでいる背景には、顧客の利便性向上だけでなく、労働力不足への対策という意味合いも大きい。
一方で、デジタル技術をそういった“守り”の用途で活用するのではなく、“攻め”のために活用する事例も出てきている。特に大きな注目を集めているのは、カメラで撮影したデータから小売店舗内における顧客の購買行動や動線などを分析する「リテールAI」だろう。
小売業にとってデジタル技術の活用と言えば、アマゾン(Aamzon.com)や楽天などに代表されるEコマースへの対応が第一に挙げられていた。確かに、Eコマースは急速に市場を広げているが、売上高ベースでより大きな割合を占めているのはリアル店舗での販売になる。Eコマースにおけるアクセス解析技術が進化を続ける一方で、リアル店舗の顧客分析はPOSレジデータが基軸のままだ。リテールAIは、このリアル店舗の顧客分析について、Eコマースと同レベルに引き上げるためのツールとして注目を集めているのだ。
矢野経済研究所は2019年12月、このリテールAIに関わる「店舗向け画像解析ソリューション市場」の調査結果を発表している。同市場は、データを収集する端末であるカメラなどの「デバイス」、収集したデータを特徴情報などのデータにする「画像解析ソフトウェア」、得られたデータから属性分析やリピート率分析、導線分析などを担うAIなどの分析アルゴリズムを含む、分析結果を可視化する「店内分析プラットフォーム」、分析結果を基に実際の施策まで提案する「コンサルティング」から構成されている。
2019年度の市場規模は16億2000万円にとどまるものの、その後年率50%前後の成長を続け、2023年度には89億1000万円まで成長する見込みだ。
現時点でリテールAIの採用に動いているのは、アパレルや商品単価の高い業種などに限られている。しかし今後は、商品単価が高いとはいえないコンビニエンスストアやドラッグストア、スーパーマーケットなどに採用が広がっていく兆しが見えつつある。
その背景としては、これまでコスト面での導入障壁になっていた、カメラや画像データを収集するエッジデバイス、データ分析を行うクラウドが安価になり、小売店舗側でPoC(概念実証)を行いやすい環境が整ってきたことが大きい。また、リテールAIのベンダーのみならず、店舗を運営する事業者自身もリテールAIの開発に積極的に関わろうとしており、これらの取り組みが小売店舗の各業態により幅広く浸透していく可能性がある。
リテールAIに積極的に取り組んでいる事業者としては、福岡県を中心に大型スーパーマーケットを展開するトライアルホールディングス(以下、トライアル)が知られている。
トライアルは2018年2月、パナソニックなどと連携してスマート化した「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」をオープンするなど、小売店舗のスマート化に積極的に取り組んでいる。さらに2019年4月には、子会社のRetail AIが独自に開発した「リテールAIカメラ」を発表。同月にリニューアルオープンした「メガセンタートライアル新宮店」は、このリテールAIカメラを1500台導入してスマートストア化したという。
リテールAIカメラは、1300万画素のCMOSセンサーと撮影した映像のAI処理を行うためのAndroidベースのシステムから構成されている。先行してスマート化を進めたスーパーセンタートライアル アイランドシティ店では、スマートフォンをベースに同様の機能を組み込んだものを使用していたが、リテールAIカメラはスマートフォン向けにコモディティ化した技術を活用しつつ小売店舗への導入に必要になる機能を集積した専用デバイスとなる。
このリテールAIカメラでは、来店客の状態認識とデジタルサイネージによる商品提案CMの連動、棚にある商品認識といったAI処理が可能だ。AI処理は、クラウドではなくリテールAIカメラ上で行ういわゆるエッジAIデバイスとなっている。
リテールAIカメラは、中国・深センで構築されているモノづくりのさまざまな基盤の活用により、製品企画を終了した後の開発開始から初期ロット量産まで約半年と短期間での開発を実現。2020年に向けて3万台規模での量産も予定しており、価格もスマートフォンベースのものよりも安価に抑えられている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.