小売店舗が主導するリテールAI、業界横断の取り組みで閉塞状況の打破へ:MONOist 2020年展望(3/3 ページ)
リテールAIの代表例としては、アマゾンが米国内で展開する「Amazon Go」が例に挙げられる。来店客が棚から商品を取って袋に詰め、店外に出るだけで商品の購入が完了するレジレスの店舗だが、設置するカメラと解析用コンピュータの台数、それらの電力料金やクラウドなどを含めて、一般的な小売店舗が導入できるようなコストにはなっていない。グループ全体で高い利益率を実現しているアマゾンだからこそ可能な取り組みだ。
最初に述べた通り、リテールAIにかかるコストは以前に比べればかなり下がっている。それでも、トライアルや、パナソニックのビューレカ、クレストのエサシーが展開するリテールAIの場合、現時点での利用料金はカメラデバイス1台当たり月額1万円強というレベルになる。エサシーが主な顧客とするアパレル店舗の場合、1店舗当たり数台の設置で済むのでそれほど大きなコストにはならないが、トライアルの1500台は言うに及ばず、サツドラの96台でもかなりの高コストだ。
これだけのコストがかかるにもかかわらず、リテールAIの導入による売り上げ増の効果を事前に想定できるほど実績は積み上がっていない。小売店舗側もリスクを恐れて、導入に向けた実証実験を行えないというのがこれまでの状況だった。
この“卵が先か鶏が先か”という堂々巡りから脱却すべく、小売店舗側が主導する形で店舗で取り扱う商品のメーカーや設備機器ベンダーなどを巻き込み、コストを応分しての取り組みに踏み出し始めた。2020年は、こういった小売店舗が主導するリテールAIをはじめとしたイノベーションが加速を始めるタイミングになるかもしれない。
⇒「MONOist 新年展望」記事はこちら
- 店舗スマート化を進めるトライアル、小売業専用のAIカメラを独自開発
福岡県を中心に大型スーパーマーケットを展開するトライアルホールディングスが、子会社のRetail AIが独自に開発した「リテールAIカメラ」を披露。併せて、トライアルのフラグシップ店舗である「メガセンタートライアル新宮店」(福岡県新宮町)にリテールAIカメラを1500台導入してスマートストア化すると発表した。
- 1台で月額1万円のAIカメラを96台導入するには
パナソニックは2019年9月11日、画像処理をエッジコンピューティングで行う「Vieurekaプラットフォーム」を導入した小売店舗を報道向けに公開した。納入先はサツドラホールディングスが運営するドラッグストア「サッポロドラッグストアー」(以下サツドラ)で、札幌市内の1店舗にVieurekaカメラ96台を設置した。この他にも2店舗でカメラを試験的に導入している。
- 無人店舗の現実解はどこに、「リテールテックJAPAN 2019」に見る現在地
人手不足が大きな問題になる中で注目を集める「無人店舗」。「リテールテックJAPAN 2019」では、近未来の店舗の姿という位置付けで、各社が無人店舗やレジレスをイメージした展示を行った。
- イオンモールがスマート化、「快適なカスタマージャーニー」をどう実現するのか
イオンモールは、「イオンモール幕張新都心」をパイロット店舗として、さまざまなデジタル機器を活用してショッピングセンターをスマート化する「スマートモール」の取り組みを進めている。この“スマート・イオンモール”の実証で効果を確認できたサービスは、順次国内で展開を広げていく方針だ。
- パナソニックがコンビニ運営に踏み出し、ファミマは無人店舗をためらわず
ファミリーマートとパナソニックは2019年4月2日、パナソニックの佐江戸事業場(横浜市都筑区)の一角に建設していた、IoT(モノのインターネット)を活用する次世代型コンビニエンスストアの実現に向けた実証実験店舗となる「ファミリーマート 佐江戸店(以下、佐江戸店)」を報道陣に公開した。
- セブン‐イレブンは無人コンビニを目指さない、省人型店舗をNECと実証
セブン‐イレブン・ジャパンとNECは、NECが入居する三田国際ビルの20階フロア内に「セブン‐イレブン三田国際ビル20F店」をオープンしたと発表した。オフィスビルや病院、工場などに設置するマイクロマーケット(小規模商圏)への本格的な展開を目的に、NECのAIやIoT技術を活用した省人型店舗となる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.