トライアルはリテールAIカメラの事業展開をさらに拡大させている。2019年11月には、サントリー酒類、日本アクセス、日本ハム、フクシマガリレイ、ムロオと、日本におけるリテールAI(人工知能)技術の推進に向けた取り組みを目的とする「リテールAI プラットフォームプロジェクト」を発足させた。
トライアルが店舗、リテールAI技術、サントリー酒類と日本ハムがメーカー、日本アクセスが卸、フクシマガリレイが冷凍冷蔵ショーケースメーカー、ムロオが物流を担っており、業界の垣根を超えて小売業に関わるバリューチェーンのスマート化を目指している。スーパーマーケットという小売りの現場を持つトライアルが、他業界を巻き込む形で取り組みを主導している点で、ベンダーが提案するタイプの従来のソリューションとは大きく異なっている。
パナソニックは本社直轄事業として、カメラで撮影したデータの画像処理をエッジコンピューティングで行う「Vieureka(ビューレカ)プラットフォーム」を展開している。さまざまな業種とパートナーを組んで、エッジコンピューティングによる画像処理のアプリケーションを広げていく方針だが、小売業は重視する業種の一つだ。
サツドラホールディングス(サツドラ)が運営するドラッグストア「サッポロドラッグストアー」は、札幌市内の店舗に96台のVieurekaのカメラを導入しての実証実験を行っている。この実証実験も、サツドラ1社で行うのではなく、飲料や食品のメーカー、卸売業者など15社が加わる「サツドラAIラボ」にパートナーとして巻き込む形で実施している。
サツドラ自身は、Vieurekaのカメラを来店客の年齢層や性別の推定、来店客数のカウント、商品棚前を通った人数、滞在時間などのデータを取得し、POSレジと会員向けポイントカードを組み合わせたデータでは分からない来店客傾向の分析や、より効果的な店舗レイアウト変更の効果検証などに利用している。一方、サツドラAIラボのパートナーは、飲料メーカーであれば、飲料売り場に設置したカメラを使って、販促物の効果や売り場での買い物客の行動、手に取ってもらいやすい陳列、欠品の影響などを分析している。
店舗屋外のサイン看板などを手掛けてきたクレストも、リテールAIを手掛ける企業の1つだ。クレスト自身は、Web広告のように効果測定が難しい看板などのディスプレイ広告のデジタル化に取り組み事業成長を遂げているが、さらなる成長に向けて開発したのがリアル店舗トラッキングツールの「esasy(エサシー)」だ。
エサシーのハードウェアは、USBカメラとRaspberry Piを組み合わせたシンプルな構成だが、エッジデバイス側で来店客の交通量計測、年齢・性別計測、商品やディスプレイ広告の視認数計測を行っている。これらの計測結果のみをクラウドにアップロードして、BIツールによる見える化を実現している。アパレルの店舗を中心に採用されており、延べ1000台以上のインストール実績がある。
クレストがエサシーの展開を進める上で重要な役割を果たしたのは、同社グループ内で小売店舗を展開するライフスタイルショップ「IN NAURAL(インナチュラル)」の存在だ。エサシーの計測結果からリブランディングを実施することで、売上高を前年比20%増にすることができた。小売店舗という現場を持ち、リテールAIによる成果をアジャイルに示せることが、エサシーの採用の広がりにつながっているといえるだろう。
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