東京大学は、生体機能を制御する超硫黄分子の代謝酵素として、硫化水素酸化酵素SQRとロダネースを同定した。超硫黄分子による生体制御機構において、それらが与える影響を解明した。
東京大学は2023年2月14日、生体機能を制御する超硫黄分子が、細胞内でどのように産生され、生体制御に関わるかを明らかにしたと発表した。超硫黄分子の代謝酵素を複数同定し、超硫黄分子による生体制御機構においてそれらが与える影響を解明した。東北大学、東京工業大学、インディアナ大学との共同研究による成果だ。
細胞が外因性または内因性の硫化水素にさらされると恒常的な代謝経路により超硫黄分子が産生され、超硫黄分子応答性転写因子SqrRの構造変化により硫化水素応答遺伝子に対する転写抑制活性が抑制される。その結果、SQRやロダネースなど超硫黄分子代謝酵素の発現が誘導され、SQRはSqrR依存的シグナル伝達の維持に、ロダネースは解消に関与することが示唆された。
超硫黄分子とは、分子内に過剰な硫黄原子が付加したポリスルフィド構造を持つ硫黄代謝物の総称だ。硫化水素の代謝過程で産生さるポリスルフィド類で、さまざまな生体機能を制御する。
今回の研究では、東京大学が同定した超硫黄分子応答性転写因子(SqrR)に着目。SqrRは、超硫黄分子により分子内ポリスルフィド架橋構造が形成されると、硫化水素応答遺伝子に対する転写抑制活性が抑制される。その活性制御に関与する超硫黄分子代謝酵素を探索したところ、主要な超硫黄分子代謝酵素である硫化水素酸化酵素SQRと、硫黄転移酵素の1種となるロダネースの2種類を同定した。
それぞれの酵素活性を測定したところ、SQRは超硫黄分子の1種グルタチオンパースルフィドとシステインパースルフィドの合成活性を示した。SQRは、誘導的な代謝経路として超硫黄分子を産生し、これがSqrRのテトラスルフィド架橋構造の持続に働くことで、SqrR依存的なシグナル伝達の維持に関わることが示された。SqrRはシステインパースルフィドへの反応性が高く、超硫黄分子の中でもこれを優先的に検知している可能性が示された。
一方、ロダネースは、硫黄転移活性は示したが、転移の内容は不明だった。しかし、超硫黄分子が還元されることで細胞内の超硫黄分子濃度が低下し、反応性の高い超硫黄分子の高蓄積が避けられることが示唆された。
硫化水素は毒物として知られるが、代謝過程で産生される超硫黄分子が生体制御やシグナル伝達に関わることが判明している。今回の成果から、超硫黄分子が関わる統合失調症や心不全などの疾患で新たな治療法開発につながることが期待される
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