インダストリー5.0のデータ共有ネットワーク、GAIA-XやCatena-Xがもたらす革新インダストリー5.0と製造業プラットフォーム戦略(3)(5/8 ページ)

» 2023年02月14日 07時30分 公開

自動車領域でのデータスペース「Catena-X」

 GAIA-Xの中で、自動車産業向けに特化した形で先行して組織構築が進んだデータ共有エコシステムが「Catena-X(カテナX)」だ。前身は2020年にBMWとSAPが中心となり結成されたAutomotive Allianceであり、ダイムラーや、フォルクスワーゲンなど他自動車メーカーが参画し2021年5月にCatena-Xへと発展している。現在では、100社以上の企業や組織が参加し、個々の企業の枠を超えた連携が行われている。完成車メーカーから、部品メーカー、素材メーカー、設備メーカー、IT企業、リサイクル企業など自動車のバリューチェーン全体にまたがる幅広い企業が参画し、日本からはデンソー、旭化成、ISTOS(DMG森精機のグループ会社)、NTTコミュニケーションズが加入している。

photo 図12:Catena-Xの参加企業[クリックで拡大] 出所:Catena-X

 先述したISDAでもコネクターが技術的なカギであることを紹介したが、Catena-Xにおいては、GAIA-Xにより整備されている「EDCコネクター(the Eclipse Data Space Connector)」と呼ばれるオープンソースのコネクターを活用している。IDSAのIDSコネクターをGAIA-XのコンセプトであるFederation Service(クラウドでの分散型共有)により適した形でアップデートしたものだといえる。企業やデータスペース同士がEDCコネクターを介してデータ主権を担保した上で、安全・自律分散的にデータ共有が可能となる。

photo 図13:Catena-XにおけるEDCコネクター[クリックで拡大] 出所:Catena-X

Catena-Xの10のユースケースとロードマップ

 現在Catena-Xでは10のユースケースの開発が進められている。まず「サーキュラーエコノミー」と「ビジネスパートナーのデータ管理」のユースケースの構築が進んでいるが、下図にもあるように、トレーサビリティーやビジネスパートナーマネジメントが土台となっている。その土台の上で各種アプリケーションが機能する形としている。例えば「CO2/ESGモニタリング」では、GHG(温室効果ガス)プロトコルのScope3と呼ばれるサプライチェーン全体でのCO2排出量や、児童労働や環境破壊などSDGsに反する取り組みがなされていないかをトレースしモニタリングする。その他「需要/キャパシティー管理」「モジュラー生産」「MaaS」「ビヘービアデジタルツイン」「品質管理」などがユースケースとして開発される予定だ。

photo 図14:Catena-Xの10のユースケース[クリックで拡大] 出所:Catena-X

 Catena-Xとしては、今後グローバルに急拡大することを目指している。今後GAIA-Xの欧州ハブを起点として、欧州でのHubの拡大や、アジア、米国、アフリカへの拡大を進める。2023年には中小企業も含めて1000社の参画を目指している。ソリューションの市場投入を皮切りに一気に自動車産業や周辺領域で広げる構えだ。この1〜2年で一気に広がる可能性があり動向に注視が必要となる。

photo 図15:Catena-Xのロードマップ[クリックで拡大] 出所:Catena-X

欧州電池規制、データ共有が必須となる市場環境へ

 特に自動車領域においてはデータ共有の拡大が必須となる要因が存在している。欧州では2024年には電池規制が施行されEV(電気自動車)などバッテリーのライフサイクルの各段階でのCO2総排出量などの項目について、独立した第三者検証機関の証明書などの提出が義務化される。

 これらの動きを見ると、サプライチェーン間でのデータ共有は「あったらよい」という「Nice to have」ではなく、なければビジネスが成り立たない「must have(必須対応事項)」へと、グローバルでは変わってきている。電池規制は自動車業界にとって、サプライチェーン全体でのデータ共有を進める最初の大きな原動力となる。これらのユースケースからデータ共有がさらに進展することが予測されている。

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