特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

インダストリー5.0のデータ共有ネットワーク、GAIA-XやCatena-Xがもたらす革新インダストリー5.0と製造業プラットフォーム戦略(3)(7/8 ページ)

» 2023年02月14日 07時30分 公開

本命は協調領域整備の裏にある競争領域でのソリューション開発

 これらデータ共有基盤の整備が進む中で、表に見えているのは標準策定などの協調領域での活動が中心となっている。しかし、本質はその裏側にある。先進企業では、これらデータ共有が必須となる社会や事業環境を規制や標準を通じて創出するとともに、それを前提としたソリューションを競争領域として着々と開発し、準備を進めているのだ。

 そのため、これらの標準化の動きを様子見している間に、裏の競争領域のソリューション開発では「すでに勝負あった」となることがあり得る状況なのだ。日本企業として、これらの取り組みに積極的に参画している企業は一部に限られるが、少しでも将来的に有利な条件を生むためには、自らルールを作り、自社のビジネスモデルやソリューションを創出するスタンスで臨む必要がある。

photo 図19:Catena-Xにおけるアーキテクチャと、協調領域と競争領域の位置付け[クリックで拡大] 出所:Catena-X資料から筆者作成

日本に求められるアクションとは何か

 こうした欧州を中心としたデータ共有基盤構築の動きは、さらなる広がりを見せている。欧州においては先述のIDSA、GAIA-X、Catena-Xなどが進んでおり、さらに産業別や地域別などでの取り組みが進んでいる。これらに協調する動きも世界中で進みつつあり、米国では企業単位で欧州での取り組みへの参加が進んでいる他、中国では2022年にIDSAとの連携が発表されている。中国とIDSA間でのユースケース開発を積極的に進めていくとしている。

 これらグローバルで企業を超えた動きが広がる中、日本の取り組みは課題が多いと言わざるを得ない。まず、日本においてはデータの競争領域/協調領域の区分分けが進んでいない。さらに、企業間連携においても契約や連携の範囲などが明確でないことが多く、企業を超えたデータ連携が進みづらい傾向にある。

 データ共有基盤の構築が進む中でまず日本企業としてやらなければならないのは「自社の競争力の源泉としてクローズドにする情報」と「他社と共有することによって新たな価値を生み出す情報」を振り分けることだ。そして、それを前提に他社とのデータ連携を加速していくことが求められる。

photo 図20:データ共有経済圏に関するグローバルの動きと日本の立ち位置[クリックで拡大] 出所:筆者作成

 今後これらのデータ共有基盤では、既に開発/実装されているコネクターを介したデータ共有の仕組みを国際標準とする動きが進む見込みだ。これらへの対応が遅れた場合に欧州やグローバルでデータの活用や連携に支障が生まれ、既存のビジネスへも影響が出る可能性がある。

 また、現在は標準として協調領域を整備する動きが中心だが、その裏ではこれらデータ共有の基盤を前提としたソリューションやサービスの開発が着々と進んでいる。インダストリー4.0や製造業のデジタル化に日本全体として遅れてしまったように、今後これらのデータ共有の世界が一気に来た際に、日本企業として競争力のあるソリューションが提案できなければ、世界での存在感を失いかねない。

 これらを回避する上でも、全てにおいて「日本流」「日本型」を標ぼうするよりも、協調領域に位置付けられる標準コネクターなどのインフラは徹底的に共通のものを使いこなす姿勢が求められる。その上で、各社固有の競争領域や、具体的なユースケース策定で、日本の独自性や強みを発揮する議論を進めていくことが重要だ。

 筆者は、日本の強みを発揮するポイントは協調領域と競争領域の間にあると考えている。協調領域のコネクターなどは徹底活用した上で「これらをいかに使いこなすのか」といった価値やユースケース創出の部分で力を発揮すべきであると考える。データ共有の実現に向けた人材育成や現場/ラインづくりなどのキャパシティービルディング、これらを支える企業の診断/改善モデルの策定、データ共有の土台となるITインフラ整備などが、グローバルで日本が強みとして発揮していくべき領域となり得るだろう。

photo 図21:データ共有基盤における日本に求められるアプローチ[クリックで拡大] 出所:筆者作成

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